リプロ・ニュース No.7-8 合併号(2025年5月発行)
- Kumi Tsukahara
- 3 日前
- 読了時間: 8分
更新日:1 時間前
ver.1.2(2025.5.22修正)
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緊急避妊薬のOTC化進展:申請と調査事業の最新動向
日本の中絶アクセス:薬剤の在宅使用における課題
SRHRの認知度わずか2%:日本社会が直面する啓発の壁
若者が変える地域の意識:渋川市高校生によるSRHR啓発活動
中絶禁止がもたらす影響:米国で出生率上昇と社会格差の拡大
米国における権利保護の取り組み:中絶薬事前入手ネットワークと若年層の自己決定権
アルゼンチン:財政削減政策がSRHRを脅かす現実
ポーランド:市民による挑戦—厳しい法規制下での中絶支援クリニック開設
フランス:中絶合法化50周年と「中絶薬の父」が訴える権利の不可逆性
追悼:家族計画のパイオニア、マルコム・ポッツ氏
「わたしの体は母体じゃない」訴訟 最新情報
新刊案内:『中絶薬完全ガイド』—日本初の実用的解説書
ボランティア募集:あなたの力をSRHR啓発活動に
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1. 緊急避妊薬のOTC化進展:申請と調査事業の最新動向 ◇◆◇────
2025年5月、あすか製薬が緊急避妊薬「ノルレボ」のスイッチOTC化(一般用医薬品への転換)を厚労省に正式申請しました。承認されれば、薬剤師の対面販売による「特定要指導医薬品」として入手可能となり、医師の診察なしで薬局での購入が実現します。 緊急避妊薬は文字通り"緊急"に必要とされる薬であり、より迅速かつ広範なアクセスが求められています。厚労省も2023年から続けてきた薬局販売の調査事業を2025年度も継続すると発表しており、一般販売の制度化に向けた動きが加速しています。
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2. 日本の中絶アクセス:薬剤の在宅使用における課題 ◇◆◇────
日本で承認されている経口中絶薬は、2種類の薬剤(1剤目:ミフェプリストン、2剤目:ミソプロストール)を順に服用することで効果を発揮します。2025年からは条件付きで、2剤目服用後に医療施設を離れ自宅で経過観察を行うことが可能となりました。
具体的には、医療機関から16km以内に居住していることなどが要件とされており、この距離は緊急時の医療対応が可能な圏内という基準に基づいています。しかし、2剤目の服用自体は依然として医療機関内で行う必要があり、「完全な在宅服用」(全工程を自宅で実施)が認められている諸外国と比べると制約が残っています。この点についてさらなる規制緩和の議論が継続中です。
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3. SRHRの認知度わずか2%:日本社会が直面する啓発の壁 ◇◆◇────
チキラボ(一般社団法人社会調査支援機構)の最新調査によると、「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」という言葉の国内認知度はわずか2%という結果が明らかになりました。
「リプロ」に関する認知が浸透していないことは、必要な医療へのアクセス制限や、自身の身体に関する権利行使の妨げとなる恐れがあります。基本的人権としての認識を高めるため、教育・政策レベルでの継続的かつ効果的な啓発活動が早急に求められています。
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4. 若者が変える地域の意識:渋川市高校生によるSRHR啓発活動 ◇◆◇────
群馬県渋川市では、市内の高校生たちが行政と連携し、性と生殖に関する権利(SRHR)の啓発活動を積極的に展開しています。
学生たちは避妊、中絶、性被害などをテーマにした啓発チラシを自ら企画・制作し、市役所ホームページへの掲載を実現。さらに、地域の学校や施設での配布・紹介イベントも計画中です。若者自身が主体的にリプロダクティブ・ライツについて考え発信していくこの取り組みは、地域に根ざした新しい啓発モデルとして全国的に注目を集めています。
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5. 中絶禁止がもたらす影響:米国で出生率上昇と社会格差の拡大 ◇◆◇────
ジョンズ・ホプキンズ大学の研究によれば、中絶禁止政策が実施された米国の各州で出生率が予測を上回る増加を示しています。特に影響が集中しているのは若年層・低所得層・人種的マイノリティであり、社会的格差のさらなる拡大が強く懸念されています。
この出生率上昇には、望まない妊娠を継続せざるを得なかった人々の増加が含まれており、単純に「出生率向上」として肯定的に捉えることはできない複雑な社会問題となっています。
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6. 米国における権利保護の取り組み:中絶薬事前入手ネットワークと若年層の自己決定権 ◇◆◇────
「A Safe Choice Network」は、リプロダクティブ・ライツが脅かされる状況下で、中絶薬(ミフェプリストンとミソプロストール)を事前に入手できる革新的なネットワークを構築・提供しています。
また、マサチューセッツ州では2020年に施行されたROE Actにより、16~17歳の未成年者による中絶に親の同意が不要となりました。その結果、中絶手術までの妊娠週数が平均60日短縮されるという顕著な効果が確認されています。この事実は、親の同意が中絶アクセスの重大な障壁となっていた現実を明確に示しています。
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7. アルゼンチン:財政削減政策がSRHRを脅かす現実 ◇◆◇────
2020年に中絶が合法化されたアルゼンチンですが、新大統領ハビエル・ミレイによる大規模な財政削減政策(「チェーンソー政策」)により、性と生殖の健康に関連するプログラムの予算が大幅に削減されました。
その影響は深刻で、中絶薬の供給は65%減少し、一部の地域では完全に入手不可能な状況が生じています。また、避妊具の供給も著しく減少しており、望まない妊娠や経済的困難から中絶を選ばざるを得ない女性が増加する悪循環が生まれています。
この事例は、法律上の権利保障だけでなく、予算や実施体制の確保が実質的なアクセス保障には不可欠であることを如実に示しています。
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8. ポーランド:市民による挑戦—厳しい法規制下での中絶支援クリニック開設 ◇◆◇────
ポーランドでは例外的なケース(レイプ、近親相姦、母体の危険など)を除き、ほぼすべての中絶が違法とされ、欧州内で最も厳しい中絶規制が敷かれています。
そうした状況に抗して、2025年3月、首都ワルシャワの国会議事堂前に中絶支援クリニックが市民団体の手により開設されました。これは政府による中絶合法化の停滞を受け、安全な中絶支援とスティグマ軽減を目指す市民の直接行動です。
法的制約の強い国で中絶支援を公然と行う拠点の設立は極めて画期的であり、国際的な注目を集めています。抗議活動も発生していますが、警察の保護下で運営が継続されており、市民の権利擁護活動の新たなモデルとなっています。
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9. フランス:中絶合法化50周年と「中絶薬の父」が訴える権利の不可逆性 ◇◆◇────
フランスは今年、中絶合法化50周年という歴史的節目を迎えました。中絶薬RU-486(ミフェプリストン)は1988年にフランスで初めて承認・発売され、安全な中絶を可能にした画期的な医薬品です。
この薬の開発者であるエティエンヌ=エミール・ボーリュー教授(98歳)は記念式典で「安全な中絶の権利は不可逆的である」と強調し、リプロダクティブ・ライツの普遍的原則を改めて世界に訴えました。「中絶薬の父」として国際的に高い評価を受ける教授の言葉は、世界各地で後退の危機に直面するリプロダクティブ・ライツの重要性を再認識させています。
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10. 追悼:家族計画のパイオニア、マルコム・ポッツ氏 ◇◆◇────
国際的な家族計画・中絶支援の分野で長年にわたり卓越した功績を残したマルコム・ポッツ氏が逝去されました。
医師・研究者・活動家として半世紀以上にわたり世界中のリプロダクティブ・ライツの前進に尽力し、日本の運動にも大きな示唆と影響を与えてくださいました。氏の残した功績と理念は、これからも私たちの活動の指針であり続けます。心より哀悼の意を表します。
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11. 「わたしの体は母体じゃない」訴訟 最新情報 ◇◆◇────
4月23日(水)の第5回口頭弁論に向けて、原告側は第4準備書面を提出しました。 この中で原告は、母体保護法第3条の不妊手術要件(配偶者同意・多産・健康への危険)について、個人の身体の自己決定権を侵害し、憲法13条・24条に違反すると主張。さらに、国際人権基準にも反すると訴えています。Call4のサイトでこれまでの経過などをご確認いただけます。 次回公判は7月9日(水)11時より東京地裁第803号法廷で行われます。いよいよ正念場かもしれません。傍聴・応援をぜひお願いします! なお、この訴訟についてわかりやすく解説したマンガやCall4のPodcastもあります。ぜひご覧いただき、一人でも多くの方への拡散・宣伝にもご協力ください。
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12. 刊行案内:『中絶薬完全ガイド』—日本初の実用的解説書 ◇◆◇────
2025年2月、塚原久美著『中絶薬完全ガイド 知る・考える・選ぶ』(RHRリテラシー研究所出版)をAmazon Kindleで配信開始しました。電子版500円、ペーパーバック版1500円。
本書は中絶薬の作用機序から国際的な標準、日本国内の制度的課題までを包括的に解説した、日本語では初となる実用的解説書です。医療関係者、支援者、フェミニスト活動家はもちろん、当事者自身が「選択する力」を持つための必携の一冊としてご活用ください。
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13. ボランティア随時募集中! ◇◆◇────
RHRリテラシー研究所では、随時ボランティア・スタッフを募集しています!
リプロに関する情報提供やイベント開催などの活動をしています。関心のある方、どうか力をお貸しください。
お問合せ: rhr.lit.lab@gmail.com ホームページ: RHRリテラシー研究所
編集後記
このたび、9月に集英社新書から一冊出る運びとなりました。次号で詳細をご案内しますが、「リプロの権利」という言葉を切り口に、日本社会における女性差別と「少子化」問題の本質について論じています。2年の歳月をかけてほぼ全面的に書きおろした渾身の一冊です。どうぞご期待ください。
知ることは力となります。ぜひお友達やご同僚にも「リプロ・ニュース」の輪を広げていただければ幸いです。購読お申し込みは上記のお問い合わせメールアドレス(rhr.lit.lab@gmail.com)まで、お気軽にご連絡ください。引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
(K)
©RHRリテラシー研究所 2025

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