リプロ・ニュース No.14
- Kumi Tsukahara
- 4 日前
- 読了時間: 11分
2026年8月3日発行
一般社団法人RHRリテラシー研究所
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1.「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟――控訴審が始まる
2.緊急避妊薬のOTC化が実現――「薬局で買える」だけで十分か
3.韓国、中絶薬の安全な国内利用に向け政府が検討へ
4.英国で女性の自己堕胎の脱犯罪化が前進
5.米アイダホ州――「自己保存の権利」から中絶禁止に挑む
6.読書会第1クール終了へ――秋からオンライン中絶VCATの試行を検討
7.ボランティア・スタッフ随時募集中!
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1.「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟―控訴審始まる
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2026年7月14日、「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟の控訴審第1回口頭弁論期日が、東京高等裁判所で開かれました。
この訴訟で争われているのは、本人が望んでも、母体保護法の定める要件を満たさなければ不妊手術を受けられないという制度です。同法は、妊娠や分娩によって生命に危険が及ぶ場合や、すでに複数の子どもがいて、出産のたびに健康を著しく損なう場合などに限って不妊手術を認めています。配偶者がいれば、その同意も必要です。
2026年3月17日の一審判決は、避妊する自由そのものは憲法13条によって保障されると認めながら、不妊手術という特定の方法を選ぶ自由までは保障されないと判断しました。ほかにも避妊方法があり、不妊手術を受けられなくても、必ず妊娠するわけではないという理由です。
しかし、原告らが求めているのは、単に妊娠を防ぐための一つの手段ではありません。生殖能力をもつ身体そのものに苦痛を感じ、「生殖能力のない身体でありたい」と望む人もいます。原告らが問うているのは、生殖可能な身体を維持するよう国家に強制されず、自分が生きたい身体を自ら構想し、形成する自由です。
控訴理由書は、一審判決が不妊手術を避妊の自由から切り離したこと、身体の在り方を自ら形成する自由を認めなかったこと、子どもをもたない家族の在り方を憲法24条の問題として扱わなかったことなどを批判しています。
中絶と不妊手術は異なる医療行為ですが、日本ではどちらも母体保護法によって管理されています。妊娠を継続するか、将来も妊娠可能な身体であり続けるかについて、本人より先に国家、医師、配偶者が判断するという構造は共通しています。
控訴審で問われるのは、不妊手術という一つの医療技術だけではありません。女性を一律に将来の「母体」とみなし、生殖可能な状態にとどめておく権限が国家にあるのか。それとも、自分の身体をどのように形成し、どのような自分として生きるかを決めるのは本人なのか、という問題です。
控訴審第2回口頭弁論期日
日時:2026年10月13日(火)14時30分~15時(予定)
場所:東京高等裁判所・808号法廷
期日の内容:控訴人が、国の答弁書に反論する書面や専門家の意見書を提出する予定です。終了後に期日報告会も予定されています。
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2.緊急避妊薬のOTC化が実現――「薬局で買える」だけで十分か
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2026年2月、緊急避妊薬が処方箋なしで薬局から購入できるようになりました。2017年に厚生労働省の検討会で薬局販売が否定されてから約9年。約4万6千件のパブリックコメントのうち97%が賛成するという大きな社会的圧力を背景に、長年求められてきたOTC化がようやく実現しました。これは、市民運動が政府を動かした重要な成果です。
しかし、対面販売、1錠7,480円という価格、取扱薬局の地域的な偏りなど、実際のアクセスにはなお大きな制約が残っています。緊急に必要な薬でありながら、必要なときに近くで購入できない人も少なくありません。
さらに考える必要があるのは、これを単に「前進したが課題も残る」と評価するだけでよいのかということです。日本政府はこれまでも、低用量ピル、経口中絶薬などについて、社会的圧力が高まるまで承認を引き延ばし、最終的には厳しい管理条件を付けて限定的に認める対応を繰り返してきました。今回も「薬局で買える」という具体的な要求に部分的に応じることで、女性が自分の身体について決める権利という、より根本的な問題が後景に退くおそれがあります。
リプロダクティブ・ジャスティスが問うのは、選択肢が形式上存在するかどうかだけではありません。誰もが費用や居住地などに左右されず、その選択を実際に行使できる条件が保障されているかどうかです。緊急避妊薬が薬局で買えるようになったことは歓迎すべき一歩ですが、それだけで性と生殖に関する自己決定が実現したとは言えません。
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3.韓国、中絶薬の安全な国内利用に向け政府が検討へ
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韓国の李在明大統領は2026年7月14日、必要な法制度が整う前であっても、女性が中絶薬ミフェプリストンを安全に服用できるようにする方策を検討するよう、政府に指示しました。
韓国では、2019年に憲法裁判所が中絶禁止を憲法不合致と判断し、2021年に刑法上の処罰規定が効力を失いました。しかし、中絶を認める妊娠週数や手続、中絶薬の承認や提供体制は、現在も整備されていません。
李大統領は閣議で、韓国の女性たちが国内の規制を避けるため、健康上の危険を冒して海外から中絶薬を直接購入しているとの認識を示しました。そして、「政府に多少の困難が生じるとしても、女性たちが適切に服用できるようにしなければならない」と述べ、問題を放置することは政府として「無責任」だとしました。
また、女性たちが海外からの個人購入に頼る状況に代わる方法として、処方するかどうかを医師の裁量に委ねる案も示しました。
この発言には、海外からの個人購入を危険なものとみなし、医師の判断を重視するなど、なお医療管理的な発想も残っています。医師個人の裁量に委ねれば、医師の価値観や地域によってアクセスに差が生じ、女性本人の意思より医師の判断が優先されるおそれがあります。
それでも、その危険を理由に海外から薬を購入した女性を処罰したり、中絶薬を禁止したりするのではなく、女性が海外購入に頼らざるを得ない現状を政府が対応すべき問題と認め、安全に利用できる道を国内に整えようとする姿勢は評価できます。
現在は、まだ中絶薬の承認や具体的な提供制度が決定した段階ではありません。今後は、中絶薬を過度に危険視して新たな制限を設けるのではなく、質の保証された薬剤、正確な情報、必要な相談や医療支援を、女性本人が自らの意思にもとづいて安定して利用できる制度の構築が求められています。
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4.英国で女性の自己堕胎の脱犯罪化が前進
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英国で2026年、女性自身による中絶を刑事罰の対象から外す重要な法改正が行われました。今回の改正対象はイングランドとウェールズです。
これまでイングランドとウェールズでは、1861年対人犯罪法によって中絶が原則として犯罪とされ、1967年中絶法の要件を満たす場合に限って、医師が刑事責任を問われずに中絶を行える仕組みになっていました。
2026年犯罪・警察法241条は、女性が自分自身の妊娠に関して行った行為について、対人犯罪法58条・59条および1929年幼児生命保護法を適用しないと定めました。これにより、女性本人が自分の中絶を行ったことについては、妊娠週数にかかわらず刑事責任を問われないことになります。
ただし、中絶医療全体が刑法から外れたわけではありません。1967年中絶法は存続し、医療機関で中絶を提供する場合の妊娠週数、医師2人の承認、実施場所などの要件も変わっていません。第三者が法定要件を満たさずに中絶を行うことなどは、引き続き処罰対象です。
北アイルランドでは、2019年に対人犯罪法58条・59条がすでに廃止され、2020年に新しい中絶制度が導入されています。今回の改正によって、イングランドとウェールズも女性本人を自己堕胎罪によって処罰する仕組みを撤廃しました。
この法改正は、日本にとっても大きな意味をもちます。
日本では、刑法212条が女性自身による堕胎を犯罪とする一方、母体保護法14条の要件を満たす場合に、指定医師による中絶が認められています。つまり、堕胎罪を原則として残し、別の法律によって一定の中絶だけを例外的に認めるという構造は、英国とよく似ています。
英国は今回、その構造をすべて撤廃したわけではありません。しかし、少なくとも妊娠した女性本人を犯罪者として処罰する部分を切り離しました。
日本でも、刑法212条の自己堕胎罪を存続させる必要があるのかが、改めて問われます。中絶を医療として規律することと、中絶した女性を犯罪者として処罰することは、別の問題です。
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5.米アイダホ州――「自己保存の権利」から中絶禁止に挑む
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2022年のドブス判決によって、米国連邦憲法上の中絶の権利は否定され、中絶規制のあり方は主として各州に委ねられました。しかし、ドブス判決が答えなかった問いがあります。
妊娠によって命や健康を深刻に脅かされている女性に対し、州は医学的に必要な中絶まで拒むことができるのでしょうか。
アイダホ州の「生命保護法」は、中絶を原則として重罪とし、「妊婦の命を救うために必要な場合」などにしか例外を認めていません。死には至らなくても、臓器の損傷や重大で永続的な健康被害が予想される場合には、十分な例外として扱われないおそれがあります。
こうした規制に対し、同州の産婦人科医スタシー・セイブは、医学的に必要な中絶ケアは、米国の歴史と伝統のなかで認められてきた「自己保存」や「正当防衛」の権利によって保護されるとして、州を提訴しました。
州側は、原告の主張は憲法上認められないとして、正式な事実審理を経ずに請求を退ける略式判決を求めました。しかし連邦地裁は、命や健康を守るために医学的に必要な中絶も、米国の歴史と伝統のなかで認められてきた自己防衛・自己保存の権利に含まれ得るとして、州側の申立てを退けました。
これによって原告側の勝訴が確定したわけではありませんが、この憲法上の主張について審理を続ける道が開かれました。
この裁判の弁護団が目指しているのは、ドブス判決を覆して中絶の権利全体を復活させることではありません。ドブス判決が扱わなかった「自分の命と健康を守る権利」によって、医学的に必要な中絶を保護することです。
弁護士のウェンディ・ハイプトは、この訴訟について、「これは中絶についての裁判ではない」「正当防衛についての裁判だ」と説明しています。銃を持った相手から自分の身を守ることは正当防衛として認められるのに、妊娠による死や重大な健康被害から自分を守るための医療は、なぜ拒まれてよいのでしょうか。
中絶を拒まれることで女性が失うのは、単に「産む・産まないを選ぶ自由」だけではありません。命や身体の健康そのものが失われます。そして、妊娠に伴う危険を負わされるのは女性だけです。
この訴訟は、中絶を自由権だけでなく、生存権、健康への権利、平等権の問題として捉え直しています。ドブス判決が閉じたと思われた扉の向こうに、別の憲法上の道が残されている可能性を示す、重要な裁判です。
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6.読書会第1クール終了へ――秋からオンライン中絶VCATの試行を検討
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オンライン読書会「『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』を読む」は、8月24日に第1クールの最終回を迎えます。
半年間、全6回にわたり、参加者の皆さんと本を読み進めながら、中絶をめぐる制度、社会、価値観、女性が置かれている状況について考えてきました。
2026年度後半は、オンラインでの「中絶VCAT」の試行に向けた検討に力を注ぐ予定です。
VCATは、Values Clarification for Action and Transformationの略で、日本語では「行動と変革のための価値明確化」と訳されます。中絶をめぐる自分自身の価値観やバイアスを見つめ直し、当事者を尊重する支援や医療のあり方を考える参加型のプログラムです。
RHRリテラシー研究所では、2026年2月に日本初の本格的な中絶VCATワークショップを対面で実施しました。オンラインでどのようなプログラムが可能か、秋以降、方法の検討を始め、年内にも試行してみる予定です。内容や参加者募集など、詳しいことが決まりましたら改めてお知らせします。
なお、読書会で使用したテキスト『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』は、割引価格(1800円…定価の約2/3)でお分けできます。今後もこの本を用いた読書会や勉強会を開催する予定ですので、興味をもたれた方は、RHRリテラシー研究所までお申し込みください。
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7.ボランティア・スタッフ随時募集中!
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一般社団法人RHRリテラシー研究所では、ボランティア・スタッフを随時募集しています。
リプロに関する情報発信、ニュースレターの作成、イベントや研修の準備・運営など、取り組みたい活動は数多くありますが、まだ人手が全然足りていません!
リプロダクティブ・ヘルス&ライツ、中絶ケア、包括的性教育、ジェンダー平等などに関心のある方、できる範囲で活動に参加してくださる方をお待ちしています。
ホームページ:一般社団法人RHRリテラシー研究所 https://www.rhr-literacy-lab.net/
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編集後記
リプロ・ニュース、5カ月ぶりの発行です。
今号では、控訴審の始まりや緊急避妊薬のOTC化など、動きの多い5カ月でした。ただ、OTC化ひとつとっても、「薬局で買える」ことと「必要なときに手が届く」ことの間には、まだ距離があります。
その距離を、この夏はより身近に感じさせられました。高額療養費の自己負担上限は、一昨日すでに引き上げられました。追い打ちをかけるように、ナフサ高騰を理由に生理用ナプキンも15%値上がりしました。自分のからだをどう維持するか、どう手当てするかが、経済的な事情で左右されてしまう――そんな場面が、じわじわと増えていきそうです。
だからこそ、正確な情報を届け続けることの意味を、あらためて感じています。何が起きているのかを知ることは、声を上げるための、そして自分の選択を守るための力になります。リプロ・ニュースは、これからも必要な情報をお届けしていきます。(K)
©一般社団法人RHRリテラシー研究所 2026





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