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【修正版】リプロ・ニュース No.13(2026年3月発行)

一般社団法人RHRリテラシー研究所


────◇◆◇コンテンツ◇◆◇────────────────────

1.「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟 ―― 棄却判決、それでも残った大きな前進 2.緊急避妊薬の薬局販売は始まったが、地域格差が大きい3.3月8日オンライン活動報告会 ―― 日本初の中絶VCATと第5回IWAC参加報告4.韓国:中絶法の「空白」が生んだ深刻な事態5.オンライン読書会「『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』を読む」が本日スタート6.ボランティア・スタッフ随時募集中!

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1.「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟判決: 棄却、それでも残った大きな前進 ◇◆◇───  2026年3月17日、東京地方裁判所は「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟について判決を言い渡しました。立法不作為の違法確認請求は不適法として却下、その余の請求はいずれも棄却という結果です。

 原告らは、母体保護法の不妊手術要件(生命危険要件・多産健康低下要件・配偶者同意要件)が憲法13条等に反し、身体と生殖に関する自己決定を侵害しているとして国を提訴してきました。自らの意思のみにもとづき合法的に不妊手術を受けられる地位の確認、立法不作為の違法確認、そして国家賠償を求めてきた訴訟です。

 請求そのものは認められませんでしたが、判決はいくつかの重要な点にも踏み込みました。

 まず、憲法13条が女性に対し、「国家から妊娠するよう強制されない、あるいは国家の介入・干渉なしに妊娠しないという決定ができる」という意味での避妊の自由を保障していると明示しました。日本の司法がここまで明確に憲法13条と避妊の自由を結びつけた意義は、小さくありません。

 また判決は、母体保護法3条1項が定める不妊手術の要件――妊娠・分娩が生命に危険を及ぼすおそれがあること(生命危険要件)、複数の子を持ち分娩ごとに健康が著しく低下するおそれがあること(多産・健康低下要件)、配偶者の同意があること(配偶者同意要件)――について、「同法の目的に照らして合理性に乏しい」 とし、不妊手術に関する制度のあり方について「適切な検討が行われることが望まれる」と付言しました。請求を退けつつも、現行制度への疑義を裁判所が公に示したことは、今後の立法論議に向けた重要な足がかりです。

 一方で、判決は不妊手術を受ける権利・自由そのものは憲法13条によって保障されないと判断しました。避妊法は複数あり、不妊手術を受けられなければ直ちに避妊ができなくなるわけではないこと、また憲法13条は意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障するが、身体への侵襲を受ける自由を一般的に保障するものではないこと、が主な理由です。

 しかし日本では、避妊手段の選択肢もアクセスも十分とは言えず、多くが自費負担で、長期的避妊法への壁も大きく、不妊手術を受けられないことは身体的・精神的・社会的健康をも損なう問題です。不妊手術を受けられないことが身体と生殖に関する自己決定に深く関わるという原告らの訴えが、十分に受け止められたとは言いがたい判決でもありました。

 原告側はすでに控訴しており、闘いは続きます。「避妊の自由」が憲法上の権利として明示され、現行制度の合理性にも疑問が付された今回の判決は、たとえ敗訴であっても、次の闘いに向けた重要な足がかりを残しました。控訴審では、生殖に関する自己決定の中に不妊手術を選ぶ自由が含まれるかどうかが、あらためて正面から問われることになります。

 訴訟の経緯や資料はCALL4の訴訟ページをご参照ください。控訴審への支援もCALL4で受け付けています。


─────◇◆◇2.緊急避妊薬の薬局販売開始――「避妊の自由」を支えるアクセス保障へ ◇◆◇───

 厚生労働省は2026年1月19日、要指導医薬品である緊急避妊薬の販売が可能な薬局等の一覧を公表しました。その後、同省は2026年2月2日から販売が開始されたこと、一覧は適宜更新されることを案内しており、3月10日付の更新版も公開しています。

 これにより、緊急避妊薬を薬局で入手できる道は広がりました。しかし、「買えるようになった」ことと、「必要なときに、どこでも、すぐにアクセスできる」ことは同じではありません。地域によって販売可能な薬局数には大きな差があり、実際のアクセスにはなお大きな偏りがあります。

 販売開始直後の段階では、在庫の有無や販売可能な薬剤師の勤務状況を事前に確認するよう厚労省自身が案内しています。制度としては始まっても、利用する側から見れば、まだ安定してアクセスできるとは言いがたい状況です。

 緊急避妊薬は「緊急」に必要とされる薬です。アクセスの地域差や運用上の壁が残るなら、それは制度が整ったとは言えません。今後は、単に販売薬局の数を増やすだけでなく、地域差をどう是正するか、利用しやすい運用にどう変えていくかが問われます。

 3月8日の朝日新聞によれば販売場所には大きな地域差があり、東京は962カ所、埼玉は58カ所で、埼玉は東京の約17分の1。医療機関との連携のあり方が地域差を生んでいる可能性があり、販売体制の設計そのものがあらためて問われています。


────◇◆◇3.3月8日 日本初の中絶VCATと第5回IWAC参加のオンライン報告◇◆◇───

 3月8日、一般社団法人RHRリテラシー研究所はオンライン活動報告会を開き、日本初の中絶VCAT(行動と変革のための価値明確化ワークショップ)実施報告と、第5回IWAC(女性の健康と危険な中絶に関する国際会議)参加報告を行いました。

 VCATは、Ipasなどが世界各地で実施しているプログラムで、中絶をめぐる自分自身の価値観やバイアスを見つめ直し、当事者を尊重する支援のあり方を考えるものです。事後アンケートでは、他者の考えや経験を共有できたこと、自分の価値観が明確になったこと、自分と異なる意見を持つ人にも共感できたことなどが、参加者にとって大きな学びとして挙げられました。今後は受講者を増やし、対面・オンライン双方のコースやファシリテーター養成へと発展させていく方針です。

 一方、バンコクで開かれた第5回IWACでは、女性の健康と安全でない中絶をめぐる国際的議論が、公衆衛生の問題から、ユニバーサル・アクセス、さらに女性中心医療へと発展してきたことが確認されました。スライドでは、日本はなお「中絶は広く行われているが、権利ではない」というパラドックスの中にあると整理されています。

 会の最後に採択されたバンコク宣言では、避妊と安全な中絶への法的・制度的・経済的障壁の撤廃、安全な中絶のユニバーサル・ヘルス・ケアへの組み込み、包括的性教育と避妊アクセスの拡大、医療者トレーニングの強化とスティグマ除去などが確認されました。また、「Trust women. Let them decide.(女性を信じる。彼女たちに決めさせる)」という理念も共有されました。

 国際会議で確認された「女性中心の中絶ケア」という到達点と、日本で支援の現場を変えていくVCATの試みは、別々のものではありません。制度を問い、医療を変え、文化を変えていく。そのための実践が、少しずつ始まっています。


────◇◆◇4.韓国:中絶法の「空白」が生んだ深刻な事態 ◇◆◇────

 韓国では、2019年に憲法裁判所が中絶禁止を違憲と判断した後も、新たな法整備が十分に行われないまま、いわば「法の空白」状態が続いてきました。そうした中、2026年3月、後期中絶をめぐる事案で女性に有罪判決が下され、アムネスティ・インターナショナルは、これは政府が必要な医療アクセスを保障してこなかった結果だと強く批判しました。

 問題は、中絶が非犯罪化されたかどうかだけではありません。法律や制度が整わず、アクセス保障や医療提供体制が曖昧なまま放置されれば、当事者は結局、危険で不安定な状況に追い込まれます。権利が紙の上で語られても、実際に使える制度になっていなければ意味がありません。

 この事例は、日本にとっても他人事ではありません。制度の不備や曖昧さを放置すれば、そのしわ寄せは必ず当事者に向かいます。中絶をめぐる権利保障は、違法か合法かの二択ではなく、誰が、いつ、どこで、どのようにアクセスできるのかという具体的な制度設計の問題でもあります。


────◇◆◇5.オンライン読書会が本日スタート ◇◆◇────

 オンライン読書会「『中絶がわかる本 MY BODY MY CHOICE』を読む」が、本日スタートしました。東京地裁判決も背景に、一回目から熱い思いが交わされました。集まったメンバーであと5回、何を語り合えるか主催者も楽しみにしています。半年をかけて全6回で読み進めながら、女性が置かれた状況や、中絶をめぐる社会のあり方について考えていきます。次回は4月24日開催予定。どの回からでも単発で参加できます。気軽にご参加ください。


─────◇◆◇6.ボランティア・スタッフ随時募集中! ◇◆◇────

 法人化後のRHRリテラシー研究所では、これまで通りボランティア・スタッフを随時募集しています。リプロに関する情報発信やイベント運営など、多くの活動を進めていますが、人手が全く足りていません。関心のある方はぜひご協力ください!

お問合せ:rhr.lit.inst@gmail.comホームページ:一般社団法人RHRリテラシー研究所 https://www.rhr-literacy-lab.net/


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編集後記

 東京地裁は、「わたしの体は“母体”じゃない」訴訟で請求を棄却しました。しかし同時に、憲法13条と「避妊の自由」に言及し、母体保護法上の不妊手術制度のあり方にも踏み込みました。大きな前進である一方で、その自由を実際に行使できる環境は、なお十分に整っていません。緊急避妊薬へのアクセスの地域差、避妊法の乏しさ、費用負担、医療の壁、スティグマ――変えるべきことはまだ多くあります。3月の報告会や読書会も、そうした課題に向き合うための小さな実践です。引き続き、どうぞご注目ください。 (K)

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