ICWRSAニュースレター Japan Special Report 2023年8月18日:3つの報告
以下は、International Campaign for Women’s Right to Safe Abortionに掲載された3本の原稿の和訳である。ICWRSAと著者の許可を得て、日本語で掲載する。2本目の和訳については著者のホームページにリンクを貼ってある。塚原久美(20230912)作成
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1. 薬による中絶に対する日本の歩み: なぜ日本はG8の中で最後にミフェプリストンを承認したのか?
マリオン・ウルマン著
ミフェプリストンは、1980年にフランスで発見された合成ステロイドである2。1985年までに中国がこの薬の臨床試験を開始して3年以内に、世界で初めて薬による中絶にミフェプリストンの使用を承認した3。その数週間後にフランスが続き4、アメリカは2000年、オーストラリアは2012年、カナダは2015年に承認した。
2022年末までに、実に93カ国がミフェプリストンとミソプロストールの妊娠中絶への使用を承認している5。
だが、日本の厚労省の委員会は長らく2剤併用療法を承認せず、2023年4月になってようやくミフェプリストンとミソプロストールの併用による薬による中絶が合法となった6。
この記事の疑問は単純明快だ。世界第3位の経済大国であり、自動車、電子機器、鉄鋼の世界最大の生産国のひとつであり、世界で最も識字率の高い国のひとつであるにもかかわらず7、なぜ日本はリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)に関してこれほどまでに遅れているのだろうか?
I - 薬による中絶の登録
日本の文化では、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に対する考え方がG8の国々とは明らかに異なっており、これが承認の遅れを説明する決め手となっている8。
世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」では、日本はブルキナファソやタジキスタンに近い116位にランクされており9、実際、この国の文化的風習は中絶法規にもはっきりと表れている。日本は中絶に配偶者の同意が必要な11カ国のうちのひとつであり、女性は経口避妊薬を入手するために医師の診療を受けなければならない10。
この国の人口動態を簡単に振り返ってみると、こうした法律や規範が根強く残っていることがわかる。同国の政治的地位は長い間男性が独占しており11、厚生労働省によれば、今も全医師のうち女性は4分の1以下しかいない12。
その結果、日本の女性が変革を進めるための公式の手段は比較的乏しかった。
このため、2011年に緊急避妊薬が承認され、1999年には避妊ピルが承認されたにもかかわらず(これも欧米の多くの国から40年近く遅れている)、利用可能な中絶方法もやはりひどく古臭いままである13。
最近のCNNの記事によると、ピルが承認される2023年4月以前、日本では「金属製の器具で子宮内の組織を掻き出す掻爬法と管で組織を吸い出す吸引法」の2つの方法による外科的中絶しか利用できなかったと、日本の公共放送NHKは指摘している14。WHOは外来で行う外科的処置としての吸引法を承認・推奨しているが、掻爬法は世界保健機関(WHO)によってかなり前に「時代遅れ」のレッテルを貼られている。WHOは、掻爬法を吸引法か中絶薬ミフェプリストン&ミソプロストールに置き換えるよう呼びかけている15。
もうひとつの要因は、日本のFDAに相当する医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、薬による中絶を支持する入手可能な国際的データを無視して、薬の開発をゼロから始めるよう命じたことである。
私は2013年にPMDA担当者と面会したが、日本はそこで初めて10年間にもわたる医薬品開発プロセスに乗り出して、12の臨床試験(他のどの国よりも多い)をそれぞれ平均5年もかけて実施し、日本人女性に焦点を当てた特有の第3相試験も執り行った。
一方、他の国々はわずか2年、日本の何分の一かの期間でプロセスを開始し、完了している。
II - 公的支援
では、最終的にどのようにして承認されたのだろうか? 製薬と臨床の同時開発に加えて、この国を前進させるために、日本の女性たちや医師たちがリードするアドボカシー活動や国内の支援グループが大きな役割を果たした。
私がPMDAの担当者と初めて会ったとき、日本の指導者たちは薬による中絶の差し迫った必要性を感じておらず、従来の手術法で十分だと主張していた。実際、2010年に私たちが面会した産婦人科医たちも、同じような両義的な態度を示し、手術という選択肢があることに満足していた。
それでも私たちのチームは、患者のウェルビーイングの重要性を強調するのと同時に、患者の裁量権、手続きの迅速性と有効性、そして経済的負担などの現実的なメリットを明かに示すことに注力した。
私たちは、日本の女性たちにも、苦痛が伴い、精神的・肉体的にリスクが高く、消耗させられる掻爬法ではなく、2種類のピルを服用するという選択肢を選ぶ権利があってしかるべきだと主張した。
やがてこの主張は浸透し始め、全国各地で大規模な社会的取り組みが実を結び始めた。
例えば2016年に私が開催した会議には、わずか十数人の参加者しか来なかった。しかし、直近の会議では100人を超える国内の医師を迎えることができた。
実際、日本の同僚と私たちのチームは、何百人もの医師に対して、薬による中絶のメリットに関する研修を行うべくここ10年間熱心に働いてきたし、薬による中絶の利点について説得力のある事例を裏付けている世界のデータに対し、参加者の受容性は次第に高まっていった。
薬による中絶の承認に先立ち、厚生労働大臣には12,000件以上のパブリックコメントが寄せられ、賛成意見は反対意見の2倍にのぼっていた。
III- 日本における薬による中絶の将来
草の根運動が承認を押し進めるという大きな成功を収めたにもかかわらず、日本の女性たちには計り知れない障壁が残っている。
前述の配偶者の承認が必要なことは明らかな障壁だが、それ以外にもさらなる難関が残されている。例えば、ブルームバーグによれば、二剤併用療法を受けられるのは病院に限られ、薬は保険適用外となるため、多くの人にとって法外に高価なものとなる16。「価格はまだ公表されていないが、メフィーゴパックはおよそ50,000円(354ドル)と推定される。日本産婦人科医会によると、検査から薬剤、入院まで、すべての処置にかかる費用は約10万円で、手術より少し安い程度にしかならない」17。
現在、ミソプロストール錠剤を服用する際に患者に入院を要求している国は、世界でもイタリアだけである。前述のように、薬による中絶の利点として特に迅速性、効率性、経済性が含まれることを思えば、入院という過酷な条件を付けることで、これらの重要な利点は否定されることになる。
また、入院を正当化する証拠もほとんどない。薬による中絶では、通常の女性の月経周期に似た出血が起こる。不快ではあるが、まったくなじみのものである。率直に言えば、患者の入院を義務付けることは、日本の保守的な医師や政治家が、中絶のプロセスを必要以上に複雑で高価なものにしようとしているように見える18。
この主張のさらなる証拠は、PMDAが薬による中絶を許可する施設に厳しい制限を設けていることである。これらの施設は認定を受けなければならず、入院に必要な設備を備えていなければならない。
結果的に、必要な認可を受けている医療施設は全体の1%にも満たない。
アメリカやカナダ、イギリスでは遠隔医療で薬による中絶が可能であり、オーストラリアやカナダでは薬局で調剤してもらえる。
実際、同僚と私は、中絶薬の「市販化」という次のフロンティアにグローバルに取り組んでいるが、日本では、これはまだまだ非現実的な短期的目標にとどまっている。しかし、日本の人々の決意は固く、国際社会からの支援があれば、日本女性の地位向上はまだ十分に可能である。
筆者について
マリオン・ウルマンは、ラインファーマ・インターナショナルのジェネラル・マネージャーであり、ラインファーマ株式会社の取締役であった。日本における薬による中絶の開発と登録を監督。彼女は、世界20カ国以上(カナダ、オーストラリア、ラテンアメリカを含む)での薬による中絶薬の登録に尽力してきた。
参考文献
1 Mayo Clinic, https://www.mayoclinic.org/drugs-supplements/mifepristone-oral-route/description/drg-20067123; Planned Parenthood, https://www.plannedparenthood.org/learn/abortion/the-abortion-pill; Agence France, “Japan approves abortion pill for the first time,” The Guardian, April 29, 2023, https://www.theguardian.com/world/2023/apr/29/japan-approves-abortion-pill-for-the-first-time
2 Robin Herman, “In France, A New Method of Abortion,” The Washington Post, September 27, 1988, https://www.washingtonpost.com/archive/lifestyle/wellness/1988/09/27/in-france-a-new-method-of-abortion/f3527ac1-cc4a-4cb0-9a89-f06dd2aa0900/; Macnaughton H, Nothnagle M, Early J. Mifepristone and Misoprostol for Early Pregnancy Loss and Medication Abortion. Am Fam Physician. 2021 Apr 15;103(8):473-480. PMID: 33856168.; E. J. Corey, Barbara Czakó, László Kürti, Molecules and Medicine, 2007
3 Ibid.
4 Ibid.
5 See Gynuity Health,
https://gynuity.org/assets/resources/mife_by_country_and_year_en.pdf
6 Kanoko Matsuyama, “Japan's First Abortion Pill Is Here — and Elusive,” Bloomberg, June 19, 2023, https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2023-06-19/japan-s-first-abortion-pill-is-here-and-elusive?in_source=embedded-checkout-banner
7 See US News and World, Japan, https://www.usnews.com/news/best-countries/japan
8 Moe Shiojiri, “Japan Severely Lags on Reproductive Rights,” The Diplomat, March 9, 2023, https://thediplomat.com/2023/03/japan-severely-lags-on-reproductive-rights/; Yamamura,S.;Terajima,T.; Navarrete, J.; Hughes, C.A.; Yuksel, N.; Schindel, T.J.; Sriboonruang, T.; Anantachoti, P.; Patikorn, C. Reproductive Health Services: Attitudes and Practice of Japanese Community Pharmacists. Healthcare 2021,9,1336. https://doi.org/ 10.3390/healthcare9101336
9 Kanoko Matsuyama, “Japan's First Abortion Pill Is Here — and Elusive,” Bloomberg, June 19, 2023,
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2023-06-19/japan-s-first-abortion-pill-is-here-and-elusive?in_source=embedded-checkout-banner; World Economic Forum, Global Gender Gap Report, 2022, https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2022/
10 Jessie Young and Era Ishikawa, “Japan approves first abortion pill, decades after other countries,” CNN, April 24, 2023, https://www.cnn.com/2023/04/24/asia/japan-abortion-pill-approved-intl-hnk/index.html
11 Justin McCurry, “‘I decided I could do better than them’: the women taking on Japan’s male-dominated politics,” The Guardian, April 7, 2023, https://www.theguardian.com/world/2023/apr/07/i-decided-i-could-do-better-than-them-the-women-taking-on-japans-male-dominated-politics
12 Kanoko Matsuyama, “Japan's First Abortion Pill Is Here — and Elusive,” Bloomberg, June 19, 2023, https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2023-06-19/japan-s-first-abortion-pill-is-here-and-elusive?in_source=embedded-checkout-banner
13 Jessie Young and Era Ishikawa, “Japan approves first abortion pill, decades after other countries,” CNN, April 24, 2023, https://www.cnn.com/2023/04/24/asia/japan-abortion-pill-approved-intl-hnk/index.html
14 Ibid.
15 Ibid.
16 Kanoko Matsuyama, “Japan's First Abortion Pill Is Here — and Elusive,” Bloomberg, June 19, 2023,
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2023-06-19/japan-s-first-abortion-pill-is-here-and-elusive?in_source=embedded-checkout-banner
17 Ibid.
18 Ibid.
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2. ヤフーの記事から見えてきた日本での中絶薬認可の遅れ
古川雅子著
日本のジャーナリストである古川雅子氏は、28人の関係者へのインタビューに基づき、公文書やその他の情報源から得た証拠をもとに、広範な調査レポートを執筆。その連載は、7月28日から30日にかけて日本のヤフーニュースに3回に分けて掲載されています。
さらに2023年8月18日発行のICWRSAニュースレター特集「中絶薬2023年に日本で承認」において彼女は、連載執筆のために行ったインタビューと調査について振り返るエッセイを寄せています。
(原文は英語による記事。下記は著者による日本語訳を彼女自身のHPに掲載したものです)
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なぜ日本では中絶薬の導入が35年も遅れたのか——。
私のレポートは、この疑問に答えるべく執筆したものです。取材を通じて、私は多くの問題、特に日本産婦人科医会(JAOG、以下「医会」)がこの大幅な遅れの原因にどのように関与していたかを見出しました。
READ MORE(リンク先URLは下記の通り)
https://www.masakofurukawa.com/post/icwrsaニュースレター古川雅子記事の邦訳
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著者について
上智大学卒のジャーナリスト。週刊誌『AERA』の「現代の肖像」シリーズで著名人の半生を追ったノンフィクションを執筆。著書に『がん患者の気づき学』(NHK出版新書)など。
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ヤフージャパンに掲載された3本のリポートの原文:
PART1:「日本は女性医薬の審査がなかなか通らない」 なぜ経口中絶薬は日本で35年も遅れたのか
https://news.yahoo.co.jp/articles/e5688b69db3b3837d043b907f75a081d830f668f
PART2:10分の「手術」と8時間待つ「飲み薬」 医会が経口中絶薬の導入に消極的な事情
https://news.yahoo.co.jp/articles/85663708926d02e4ea66ac43d016ed3d5e077f59
PART 3:中絶は「女性の罪」か――明治生まれの「堕胎罪」が経口中絶薬の遅れに及ぼした影響
https://news.yahoo.co.jp/articles/2882ecb5c6d3fee7420c900f375a494976e3b229
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3. 薬用中絶薬は毒物を含む劇薬か? ノー!
塚原久美
日本では、ラインファーマ株式会社のメフィーゴパック(中絶薬ミフェプリストンとミソプロストールのコンビパックの商品名)が2023年4月28日にようやく承認されたが、フランスでの承認より35年遅れて「劇薬」と表示された。その成分については、ミフェプリストンの製剤と有効成分、ミソプロストールの製剤の両方が、「害をもたらす」ことを意味する「劇薬」に分類された。
さらに2023年7月、日本の厚生労働省(以下、厚労省)は突然、メフィーゴパックの有効成分ミソプロストールを「毒物」に指定した。厚労省はサイトテックの有効成分ミソプロストールの説明を採用することに決めたようで、EMCのウェブサイト(サイトテックを販売している会社)によれば、サイトテックは胃潰瘍の治療に使用される薬である。そして、厚労省はすでにラインファーマ社に(有効成分を毒薬とするように)文書を書き直させている。
日本の薬剤師は、このような医薬品の分類を大した問題ではないと考える傾向がある。しかし、この医薬品が世界保健機関(WHO)に承認された必須医薬品であり、可能な限り広く入手可能にすべき薬であることを考えると、ミソプロストールの劇薬指定とそれに伴う制限がアクセスを妨げる障壁となっていることは否めない。メフィーゴパックの承認条件には、母体保護法に基づく「指定」産婦人科医が薬の提供、処方、使用について厳重に管理することも含まれている。また、女性の強制入院や、胎嚢が排出されるまで医療機関にとどまらせることも条件とされており、流通や投薬の管理にも複数の要件がある。
このような状況では、患者はプライバシー権の保障や薬の自己管理など、薬による中絶の最大のメリットを奪わればかりか、移動の自由さえも奪われる。他の中絶と同様に配偶者の同意が必要であり、料金は健康保険が適用されない外科的中絶の費用と同等の約10万円(約700米ドル)といわれる。日本という島国に閉じこもっていると、このような不公平に気づかなくなりがちである。
世界中で、薬による中絶のためのミフェプリストンとミソプロストールの組み合わせは、長年にわたって安全で効果的であると認められてきた。しかし、この薬が承認される前に、厚労省は(違法に輸入された)中絶薬は危険であるというイメージを広めた。「劇薬」に指定することは、ましてや「毒薬」としてしまうのでは、人々の誤解を深めてしまう。
私はこの20年間、日本の中絶をめぐる問題を多角的に研究してきた。多くの海外の専門家にも会い、日本の中絶医療が世界と絶望的なまでに違うことを肌で感じてきた。問題は中絶だけに留まらない。たとえば、避妊用ピルが日本でようやく承認されたのは1999年であり、世界より40年ほど遅れている。中絶薬も同じ運命をたどるのではないかと、私はますます懸念を深めている。
「劇薬」や「毒薬」というレッテル貼りは誤った恐怖に基づく言い訳を作り、実際には自宅で安全に行える12週までの薬による中絶を、わざわざ病院に入院させて実施することでその料金をD&Cと変わらないほど高額にさせているのは間違いない。
私は最近、日本の女性はメフィーゴパックの錠剤を使用した後に、必要に応じて中絶を完了するために追加のミソプロストールを使用できないことに気づいた。だが、ミソプロストールが必要な時に入手可能でありさえすれば、ほとんどの中絶が外科的処置を必要とせずに完了できるということは、他の国々ではすでに知られており標準的な療法になりつつある。日本国内で、コンビパックに入っている薬以外では、唯一のミソプロストール製剤であるサイトテックは(流産の恐れのために)「妊婦には禁忌」とされており、医師は適応外処方に消極的である。妊娠の終了が目的であるにもかかわらず、である。
イギリスのボーンマス大学の客員教授であるサム・ローランズ博士によれば、ミソプロストールの適応として中絶を認めている国はほとんどないという。ミソプロストールは基本的に胃潰瘍の治療薬であり、中絶に関する論争に巻き込まれる可能性のある効能追加の承認をあえて申請する企業はない。その代わり、医師たちに適応外で中絶薬を使ってもらうことで企業は利益を得ている。
しかし、日本産婦人科医会(「母体保護法指定医師」が所属する利益団体)は、適応外使用を以下のように明確に禁止している。
他の薬剤と同じような感覚で、適応外使用(追加投与や稽留流産、緊急避妊での処方)を行うと、毎月所属医師会に提出するメフィーゴパック施用報告書への記載が困難となり、所属医師会からの指導が入ることが予想されますので、適応外使用は厳禁です。[1]
この禁止事項では、女性の健康や優れた臨床実践よりも、「厳格な管理」のために従わなければならない書類処理の都合が優先されているように見える。
同じく「劇薬」とされているサイトテックについて、メフィーゴパックに追加して使用する可能性はないかと商品詳細説明を調べていたところ、有効成分のミソプロストールが「毒薬」に指定されていることに気づいて私は戸惑った。この指定は、1985年に動物で行われた「生殖発生毒性試験」という安全性試験の結果によるもののようだった。この論文は、以前厚生労働省の役人がメフィーゴパックの錠剤を劇薬と表示する根拠として引用したものと同じものだと判明した。毒性試験の結果、ミソプロストールにさらされたウサギの胎児に先天性異常と流産のリスクがあることが確認されたというのである。しかし、この毒性試験では、信じられないほど大量のミソプロストールが使用されていた。具体的には、「990μg/kgのサイトテックをウサギに経口投与」したところ、ウサギ胎児の着床後死亡または器官形成異常が増加したことが報告されている。
胃潰瘍の治療薬として服用されるサイトテックは、通常1回200μgを1日4回、1日総投与量800μgである。一方、ウサギの実験で投与された量は、体重50kgの人間に換算すると49,500μg、通常の約62倍であり、人間でいえばミソプロストール錠250錠近くを一度に服用する量に相当する。単なる塩でも、大量に摂取すれば死に至ることは誰でも知っている。私は薬理学者ではないが、ウサギにこのような非常に多量のミソプロストールを投与した結果に基づいて、ミソプロストールが "劇薬 "あるいは "毒薬 "に指定されたことは、非常識に思われる。
中絶薬と奇形との関係について私が質問した時、ローランズ教授はこう言った。「1998年にランセット誌に掲載された書簡によると、プロスタグランジンのゲメプロストについては、稀なケースではあるが女性が薬による処置で中絶に失敗した後に妊娠継続した場合、胎児の奇形が数件報告されている」。だが、この書簡には次も明記されている。「ミフェプリストンとミソプロストールの併用に関連した奇形の報告例はなかった。」
ゲメプロストは日本で1970年代に開発され、1984年に承認された世界初の中絶薬プレグランディン膣坐剤1mgの成分である。ゲメプロストは過去40年間、日本では中期中絶にのみ使用されており、これも劇薬として厳しく管理されてきた。日本の指定医師たちは、メフィーゴパックをプレグランディンと同等に厳重管理することを要求してきた。
プレグランディンのインタビューフォームには、「本剤の臨床試験は、治療的中絶を必要とする妊娠後期の患者のみを対象として実施され、胎児への影響については全く検討されていない」ため、「生児分娩の陣痛誘発に使用してはならない」と記されている。メフィーゴパックの薬は、「中絶に失敗して生き残った胎児」への悪影響の可能性があるため、「劇薬」としてリストアップされているが、プレグランディンは中絶に失敗して生き残った胎児への影響について検討されたことすらないのだ。実際、承認当時の新聞報道によれば、プレグランディンが「劇薬」として厳しい管理下に置かれたのは、(胎児への悪影響のためではなく)「薬物療法のみによる中絶」に反対する保守派の代表や指定医自身からの猛反対があったためだと言われている。
実際、プレグランディンは1970年代に初期中絶のために試用され、その高い成功率で国内外から注目されていた。しかし、掻爬による早期中絶に慣れた日本の中絶指定医たちは、早期中絶のデータを隠し、中期中絶専用薬として承認申請するよう製薬会社に迫った。当時の臨床試験でプレグランディンを使用した患者はわずか63人だった。1990年代に入ると、プレグランディンの使用で子宮破裂や子宮頸部裂傷が数例報告され、1996年には当時の厚生省が取り扱い規定をさらに厳格化し、注意喚起を行った。
この間、ほとんどの日本の医師は、世界中で中絶薬の使用が増加していることを知らなかった。私が2010年に母体保護法指定医師に対する調査の一環として行ったアンケートでは、RU486(ミフェプリストン)は「危険」、「効果がない」が約7割、「導入が難しい」が約6割、「導入に反対」が約5割と、大多数の医師が危険視していた。すでに(2003年に)WHOが中絶薬を安全で確実な妊娠中絶方法と位置づけていたことを、当時、大半の指定医師は知らなかったのである。
インターネットが普及して久しい日本だが、海外の中絶事情からは孤立していた。日本の中絶は変わらなければならないし、そのためには国境を越えた議論が必要である。
WHOやFIGOを含む世界中の専門家は、推奨されているミフェプリストンとミソプロストールの組み合わせは、妊娠初期と中期の両方の中絶において非常に安全であると認識している。1985年の時代遅れの文献に基づいて、今日、ミフェプリストンとミソプロストールを劇薬あるいは毒薬などと指定することは、これらの中絶薬が安全であることを承知している医療専門家やその他の人々を委縮させるばかりで、中絶を求める女性や少女の権利を侵害する結果になっている。
著者について
塚原久美は日本の中絶問題に関する研究者である。中絶問題に関する3冊の日本語の著書があり、ティアナ・ノーグレンの "Abortion before Control"、ヘレン・ハーデカーの "Marketing the Menacing Fetus in Japan"、ロビン・スティーブンソンの "My Body My Choice "等の訳者でもある。
[1] https://www.jaog.or.jp/lecture/ 26-%E3%80%80産婦人科医師向け経口中絶薬に関するq&a/
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編集者 マージ・ベラー
YANAA コーディネーション & ソーシャルメディア & ICWRSA ソーシャルメディア: シュルティ・アローラ
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