提言:不妊治療助成拡充についてリプロの視点で見直す

最終更新: 3月11日







2021年3月7日

RHRリテラシー研 塚原久美


370億円をかけての不妊治療推進


 菅政権は出産を希望する世帯を広く支援するために不妊治療の保険適用を検討し、保険適用までの間は、現行の助成措置を大幅に拡大するために、特定不妊治療のために令和2年(2020年)の第三補正予算で370億円を計上した。同じ補正予算で母子家庭等対策総合支援事業に計上された148億円と比べると2.5倍もの規模である。

 厚生労働省が明らかにした「不妊に悩む方への特定治療支援事業」の拡充の説明によれば、この事業は不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、高額な医療費がかかる配偶者間の不妊治療に要する費用の一部を助成するものだと位置付けられている。助成対象は体外受精及び顕微授精(以下「特定不妊治療」という)であり、対象者は特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された夫婦(治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦)である。


子ども1人が生まれるまで30万円を6回支給


給付額は、①治療1回につき30万円(採卵を伴わない凍結胚移植及び採卵したが卵が得られない等のため中止した場合は1回10万円)で、助成を受けられる回数は初めて女性を受けた際の治療期間初日における妻の年齢が40歳未満であるときは通算6回、40歳以上43歳未満であるときは通算3回まで(1子ごと)または②男性不妊治療(精子を精巣又は精巣上体から採取するための手術)を行った場合は30万円である。この拡充が適用されるのは令和3年1月1日以降に終了した治療であり、期間は令和3年の1月から令和3年度の末までの15ヵ月間である。

 従来の助成件数は平成30年度で約13万8000件であり、これまでの所得制限(夫婦合算)730万円の所得制限を撤廃することで、助成対象は拡大すると見込まれる。助成額も従来の1回15万円(初回のみ30万円)を30万円に引き上げており、助成回数も「生涯で6回まで」だったのを「1子ごと6回まで」と引き上げた。この助成を受ければ、従来よりも特定不妊治療を受ける回数を増やすことが可能になる。

 これは一見、不妊治療を受けている夫婦を利する施策に思える。しかし、後述する通り、特定不妊治療はリスクの高い医療であり、それを受ける当事者は女性である場合が多いため、女性の性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)が守られていることを慎重に検討する必要がある。

 そこで本稿では、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツの視点から、このたびの助成拡充のもつ問題点を明らかにする。


リプロダクティブ・ヘルス&ライツとは


 リプロダクティブ・ヘルスとは、性と生殖にまつわる身体的、精神的、社会的なウェルビーイングを意味する言葉である。また、リプロダクティブ・ライツの主な要素は、リプロダクティブ・ヘルスを守るために産む/産まないに関する自己決定権(自由権)と最良のリプロダクティブ・ヘルスケアが保障される権利(社会権)である。

 一方、不妊とは「避妊をしないで定期的な成功を持ちながら12ヵ月妊娠しないことで定義される生殖器官の疾患」とされている[1]。日本産科婦人科学会編集の産科婦人科用語集では、「不妊症」とは「生殖年令の男女が妊娠を希望し、ある期間避妊することなく性交渉をおこなっているのにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊といい、妊娠を希望し医学的治療を必要とする場合」と定義づけている。つまり、「不妊」は一定のからだの状態を指しているのであり、「不妊=病気」ではない。自らの不妊状態に甘んじることなく、その治療を求めたときに初めて「不妊症」の患者になるのである。


日本の不妊治療


 日本における不妊治療は、「一般不妊治療」と「生殖補助医療」に大別される。「一般不妊治療」には、超音波検査で卵胞の大きさを測定し、排卵日を推定することで、最も妊娠しやすい時期に性交をもつようにするタイミング法や排卵誘発剤を服用して排卵を起こす排卵誘発法が含まれる。これらには保険が適用されるが、人工授精は一般不妊治療に分類されながら保険は適用外である。一方の「生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology:略ART)」とは、卵子を体外に取り出す採卵や体外受精(IVF)、受精させた卵(胚)を子宮内に戻す胚移植(ET)の他、精子を顕微鏡下で受精させる顕微授精(ICSI)などを組み合わせて行う高度な医療技術の総称で、保険適用外の人工授精と共に、このたびの助成拡充の対象とされている。それというのも、これらはすべて保険適用外なので非常に高額であるためで、厚生労働省が資料で示した平成18年の平均治療費は体外受精1回あたり30万円、顕微授精1回あたり40万円である。

 2020年に法制審議会民法(親子法制)部会第7回会議で示された徳島大学大学院医師薬学研究部苛原稔氏の「日本の生殖医療の現状と課題」と題された資料によれば、2016年に日本で行われたART治療総周期数[2]は44万7,790周期にも上る。世界でも日本は中国に次ぐART大国で、第3位のアメリカの実施数の2倍以上である。その内訳は、通常の体外受精(通常周期[3])が9万4,566件、顕微授精が161,262件、凍結胚を用いた手法(凍結周期)が191,962件である。

 最多である凍結胚を用いた手法とは、近年では最も有望視されており、体外受精でできた胚を凍結しておき、後の周期の排卵時に融解した胚の移植を行う。採卵直後の子宮はコンディションが最良ではないため、子宮内の環境が整ってから子宮に戻すことで妊娠率が向上するのである。同じ資料に示されている総出生数は54,110件(総周期数に対して12.1%)であり、うち通常周期4,266件(4.5%)、顕微授精5,166件(3.2%)と比べても、凍結周期は44,678件(23.3%)と非常に成功率が高いことが分かる。


より複雑で侵襲的な治療に


 ただし、凍結周期法の場合は、採卵、体外受精または顕微授精、胚凍結、胚融解、胚移植とより手順が増え、凍結胚を保管しておく手間も増える。より操作が増すために値段も他の方法に比べて高くなる。さらに、以前は1回に複数個の胚を胎内に戻すことで妊娠[4]率を上げていたのだが、母体への危険や産婦人科における医療的管理が手薄になることなどが問題視されるようになり、2018年に本産科婦人科学会は「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」において、「移植する胚は原則として単一とする」こと、「ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」こととした。以降、多胎は急速に減少した一方で、妊娠・出産に至らないケースが必然的に増えることになった。

  ARTの実施数は年々増加しており、先の資料によれば、国の不妊治療助成を受けた人数は平成24年度実績で助成を受けた回数1回が15,051人、2回が14,822人、3回が16,306人だったとされる。年齢で見ると、39歳が最も多く10,001人、38歳9,805人、40歳9,498人と続く。40歳以上を合わせると全体の32.7%を占めている。


健康リスクが増える


 しかし妊婦の年齢が上がるほど、妊娠をめぐる問題は増える。年齢別にみた妊産婦死亡率(出産十万対)は、30歳の妊婦なら3.3だが、40歳では11.6、43歳で36.0、45歳以上だと54.9にも上昇する。自然流産率も、35~39歳で20.7%、40歳以上は41.3%で、これらの数値は25~29歳、30~34歳の群と比較すると統計的に有意に高い。妊娠高血圧症症候群の年齢別の相対的リスクも30歳の総体リスクを1とした場合、39歳は1.65、43歳は2.18、45歳は2.68と上昇する。周産期死亡率[5]も、30歳の時点では3.6だが40歳では7.0、43歳で12.0、45歳以上14.1に上昇する。染色体異常も30歳の時点では出生千対2.1の頻度だが、40歳では15.2、45歳では47.8と上昇する。

 このように考えると、不妊治療は必ずしもいいことずくめではなく、高齢でも子どもを持てる人が増える一方で、女性自身の健康や子どもの健康に対するリスクは増えていくという難点がある。とりわけ、通常の妊娠でも高齢になればなるほど流産しやすくなるものだが、不妊治療による妊娠の場合はなおさらで、総妊娠周期数に対する流産率は35歳で20.3%、40歳で35.1%、45歳以上では66.0%と、実に3分の2が流産を経験することになる。

 逆に総妊娠周期数に対して無事に出産に至る率は35歳で16.3%、40歳で7.7%、45歳では0.6%にまで下がる。年齢によって最終的に分娩に至る割合も変わる。不妊治療を5回受けた時点で分娩に至ったカップルの割合は、女性の年齢が34歳以下の場合は60%に達したが、35~39歳は4割にとどまり、40歳以上では1割程度だった。分娩に至らなかったなかには、そもそも妊娠に至らなかったか、いったん妊娠をしたと喜んでいながら流産や死産に至ってしまう人々も含まれている。


こころのケアは不可欠


 獨協医科大学埼玉医療センターの杉本と小泉による「不育症のこころのケア」という資料によれば、ヨーロッパひと生殖学会(ESHRE)心理社会的ケアガイドラインは体外受精IVF、顕微授精ICSIを受けた人の妊娠判定検査実施後の精神病の有病率を明らかにしている。それによると、女性の4人に1人、男性の10人に1人が(軽度を含む)うつ病を発症しており、女性の7人に1人、男性の20人に1人が(軽度を含む)不安障害を発症していた。さらに流産後の有病率[6]は、PTSDを有していた人は1か月後29%、3か月後21%、9か月後18%であり、中~重度の不安は1か月後24%、3か月後23%、9か月後17%、さらに中~重度のうつは1か月後11%、3か月後8%、9か月後6%だった。

 不妊治療で不成功(流死産含む)の場合の長期有病率も高く、IVFまたはICISIで治療不成功の場合、女性10人に1~2人は臨床的に問題となるほど深刻な鬱状態を呈しており、治療不成功後3~5年間にわたり妊娠を希望し続けている女性は、新たな人生の目標を見つけたり、母親になったりした女性と比較して、多くの不安やうつ症状が認められると言う。IVFまたはICSIで治療不成功になってから5年が経過した後も子どもがいない元患者は、養子縁組や自然妊娠によって親となった元患者と比べて、睡眠薬の使用量、喫煙の頻度、アルコール摂取量が多い可能性があり、離婚する可能性が3倍高いことも明らかになったという。

 同じ資料で挙げている最近のエビデンス(Farren、2020)でも、24週以前の早期流産(子宮外妊娠含む)を経験したカップル192組の夫婦のメンタルヘルスを比較したところ、妻の方が精神的不調が長く続き、夫婦間ギャップが大きいために、妻対象のメンタルケアに加えて、夫婦関係の調整が必要だと結論されている。この研究によると、妻のPTSDの有病率は1か月後34%、3か月後26%、9か月後21%と、ESHREの調査対象者よりも深刻であった。

 以上を踏まえると、特定不妊治療の実施と並行して、メンタルヘルスに対する十分なケアを提供することは不可欠である。元々、女性の方がうつになりやすいということは従来の研究でも明らかにされている。日本政府は、国連女性差別撤廃委員会から女性のメンタルヘルスケアの問題に対応すべきだとも指摘されてきながら、対策はほとんど取られてこなかった。コロナ禍において2020年に女性の自殺数が前年比で急増することになったのも、対応が遅れてきた結果ではないかと危ぶまれる。特定不妊治療を受ける女性はもちろん、一般の女性や少女に対するメンタルヘルス対策も急務であろう。


不妊治療以外の対策にも目配りを


 一方、不妊に悩む人々に、不妊治療以外の「出口戦略」を立てていくことも重要である。不妊治療がうまくいかなかったり、不育症に悩んだりした末に里親になるという「出口」を見つけた人びとから、「42歳まで不妊治療をした。早く知っていたら、子育ては体力勝負」、「早い時期に知っていたら不妊治療にしがみつかない」、「血のつながりだけが全てではない、と不妊治療をしていた頃の自分に教えたい」などの声も上がっている。より良い情報提供と機会の提供、制度的なバックアップを行っていくべきだろう。

 また、子どもを授からずに悩む人がいる一方で、意図せぬ妊娠で悩んでいる人々もいる。特に、若年層や貧困女性などで、「子どもを産みたい」という気持をもちながら、「中絶するしかない」と追い込まれてしまう人々が確実に存在している。北村邦夫氏が2020年5月20日の朝日新聞で明らかにした中絶の実態調査によれば、「最初の人工妊娠中絶手術を受けることを決めた理由(女性)」について、「経済的な余裕がない」は24.3%、「相手と結婚していないので産めない」は24.3%、「自分の仕事・学業を中断したくない」が8.6%だった。

 「経済的な理由」で産めない人々に経済的支援を行っていくことは、少子化対策としても有効に違いない。社会的な支援が欠落しているがために「産む」選択肢が事実上奪われている現状は、リプロダクティブ・ライツの観点に照らすと、まさに人権侵害的でもある。また、未婚でも、当人が望むなら出産し、支援を受けながら安心して育てていけるような制度作りも必要である。未婚の母に対する差別の撤廃、仕事や学業との両立支援などの施策によって、「産みやすい」環境を醸成していくべきであろう。


産みたいのに中絶に追いやられる女性たち


 平成15年(2003年)に日本産婦人科医会が明らかにした10代女性を対象とした人工妊娠中絶についてのアンケート結果も示唆的である。「妊娠がわかったときどう思いましたか」の問いに対し、「嬉しかった」が32.6%、「困った」68.1%で、19歳女性では34.5%が嬉しかったと答えていた。「産みたいと思いましたか」に対しては、「産みたかった」39.3%、「産みたくないと思った」が18.1%で、19歳女性では「産みたかった」が41.8%だった。一方で「妊娠中絶を選択した理由」は「収入が少なくて育てられない」が67.7%で最多であり、次いで若すぎる、未婚のため、子育てに自信がない、学業に差し支えるが続いた。「もしこうだったら中絶しないで済んだ条件」については、「子育てと学業の両立」が31.0%で最多であり、次いでパートナーと結婚出来れば、妊娠出産の費用、親の理解、育児への補助の充実、教育費、相手の理解等が上位を占めていた。これらの結果より、医会では「相当数の10代女性が産みたかったが、やむをえず人工妊娠中絶を選択している」、「晩婚化による高齢出産のリスクを考えれば、10代での妊娠出産支援の方がより少子化対策には有効」、「学生を対象とした公的保育施設の設置等、学業と子育ての両立支援も必要」と考察している。

 最後の両立支援については、従来、不妊治療を受けている当事者からも休暇制度や労働時間に関するより柔軟な対応を求める声が上がっており、厚生労働省が行ったパブコメでも経済的支援を求める意見より就労等の環境改善を求める意見の方が多かった。フレキシブルな勤務システムの導入は、不妊治療のみならず、男性型労働形態からの脱皮と女性活躍支援の観点からも不可欠であり、早急に取り組むべき課題の一つであろう。


不妊治療は少子化対策にならない


 なお、欧州議会では2008年に加盟国に対して「不妊治療へのユニバーサル・アクセスを保障すること」が決議され、少子高齢化が緩和されることが期待されてきた。しかし、アメリカで1980年代から不妊治療の保険適用を義務付けてきた複数の州の出生動向を調べた研究で、不妊治療を保険適用にしても少子化は食い止められないことが示されている。2015年にMachadoとSanz-de-Galdeanoは、1980年代のアメリカで不妊治療の手法の制限もなく既婚者に限定してもいない最も「強い義務」をかけた州と、それ以外の州、特に21世紀に入るまで類似法のなかった州を比較することで、①不妊治療を保険適用とすることで初産のタイミングはどう変わったか、②不妊治療の保険適用が増えることで女性が生涯に産む子供の数にどのような影響が出るかについて実証的に調べた。

 その結果、不妊治療の保険適用により、比較的高齢の女性たちの出生率は上昇し、多胎妊娠も増えていたにも関わらず、最終的な子どもの数の増加に寄与していなかった。特に、強い義務を課していた州の比較的若い女性たちには出産を遅らせる傾向が見られ、30歳の時点までにもつ子どもの数と、生涯に産む子供の数のどちらも減少していたのである。このことを踏まえると、不妊治療への助成は少子化対策としてではなく、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツを保障するためにこそ行うべき施策だと位置付け直すべきではないだろうか。




 上記に照らして、以下を提言する。


リプロの視点に立った不妊治療助成にしてください


 女性の健康と権利を保障するという視点を全く欠いたまま、少子化対策として特定不妊治療への助成を拡充するのみで、不妊治療実施に伴って女性がこうむるおそれのある諸問題の防止と解決のために全く予算をつけていないことは問題である。女性は産む機械でも孵化器でもなく、人権を持つ一人の人間なのである。女性たちに、十分な情報を受けた上での選択(インフォームド・チョイス)が常に保障されることと、リプロダクティブ・ヘルスを守り、向上させるために安全で安心なヘルスケアを得られることは重要である。不妊治療にまつわる施策は、単に国の人口政策としてではなく、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツの観点から進めることが肝要である。


女性たちの自律と決断を補助してください


 特定不妊治療への助成が拡充されることにより、「金を出すから治療せよ」と「金をもらえるのだから治療せよ」といった方向に国や家族や周囲の人々からプレッシャーを浴びた女性たちが、キャリア中断などに追い込まれるおそれもある。不妊治療を行うか、続けるか、中断するか等々について、女性たち自身が決断する機会を確保するための対策が必要である。政府主導で学校や職場の側に理解を求め、柔軟な働き方改革を進めてもらう必要もあるだろう。

 不妊治療を受けている当人が「不妊治療しかない」と思い詰めることがないように、里親制度を初めとした他の選択肢や子どもがいない生き方についても十分に情報提供することで、選択肢を増やしておく必要がある。また不妊治療にまつわるリスクについては、常に前もって十分に説明しておき、当人が納得して選択できるようにする。また、途中で治療がうまくいかず続けるかどうかを迷ったり、やめたい気持ちが生じたりしたときに、十分なカウンセリングを受けられる体制を整えることで、メンタルヘルスの悪化を防止し、当人が治療継続または治療停止を納得して再選択できるようにする。


不妊治療とメンタルヘルスケアをセットにしてください


 治療失敗に至った場合の女性たちのメンタルヘルスへのリスクが強く懸念される。「6回」という枠を決して強制しないように留意し、メンタルヘルスのケアは常に同時進行すべきである。

 妊娠しても流産をくり返すケース、せっかく妊娠しながら出生前診断の結果中絶を選ぶケース、障がいをもつ子どもが生まれるケースが一定数あることを前提に、そうした場合のメンタルヘルスケアや産後の育児ケアまで、万全な備えをしていく必要がある。


当事者のニーズに耳を傾け慎重に進めてください


 なお、現在、新型コロナウィルスが蔓延しているなかで日本産科婦人科学会は「不妊治療」は先送りにすると発表しているが、そのさなかに補正予算でこの対策を打ち出したことは拙速と言わざるをえない。特定不妊治療に予算さえつければ問題が解決するわけではない。これまでに行われてきた調査やパブコメでも、経済的支援よりも両立支援を望んでいる人が多かった。特定不妊治療を受けている当事者のニーズを先に十分に把握したうえで、じっくりと対策を練るべきである。


産みたいのに産めない妊婦を支援してください


 また、「産みたい」のに「産めない」状況に陥っている人たちのために「産める」環境を整えていくことは、当事者のリプロダクティブ・ライツを保障するために不可欠である。また、すでに生まれていて貧困に苦しんでいる子どもたちやその親たちへの支援をもっと手厚くしていくべきである。コロナ禍において、DVや性被害などの人権侵害に苦しんでいる女性たちも少なくない現在、それらの問題を差し置いて不妊治療にのみ多額の予算をつけ、しかも物理的に治療を受けさせるだけで当事者の心身の負担や権利を全く考慮していないのでは、女性を子産み機械、孵化器としてのみ見ているのではないかと批判されても仕方あるまい。


リプロダクティブ・ヘルス&ライツの原点に立ち返って施策を見直してください


 最後に、特定不妊治療費助成事業は、「女性の生殖に政策的に介入する」ものであり、下手をすると女性の自由権を侵害してしまいかねない。第5次男女共同参画基本計画にもある通り、「心身及びその健康について、主体的に行動し、正確な知識・情報を入手することは、健康を享受できるようにしていくために必要である。特に、女性の心身の状態は、年代によって大きく変化するという特性があり、『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』(性と生殖に関する健康と権利)の視点が殊に重要である」。この根本理念に照らし、人権としてのリプロダクティブ・ヘルスとリプロダクティブ・ライツの原点に立ち返って、施策の見直しを進めて頂きたい。


[1] 避妊をしないで定期的な成功を持ちながら12ヵ月妊娠しないことで定義される生殖器官の疾患」とされている。(世界保健機関(WHO)と国際介助生殖医療モニタリング国際委員会(ICMART)の定義によるART用語集より) [2] 女性の1回の月経周期(排卵1回)で数える。 [3] 採卵して体外受精させたらすぐに子宮内に戻す方法。 [4] 戻した胚が着床したら妊娠とみなす。 [5] 1年間の出生数千対死産と早期新生児死亡の合計値 [6] 妊娠24週以前の流産(子宮外妊娠含む)した女性737人のコホート研究による


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