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2. 経口中絶薬発売後1年を過ぎて

「リプロ・ニュース」No.1(2024.6.1発行)

 

 経口中絶薬メフィーゴパックは2023年4月28日に日本国内で承認され、5月16日に発売されて、すでに1年が過ぎました。ラインファーマ株式会社のサイトに登録されている「経口中絶薬について相談できる病院・クリニック」のリストに掲載されている医療機関は5月下旬の段階で149か所しかなく、母体保護法指定医師のいる医療機関4176か所(2020年)の4%にも届きません。47都道府県のうちおよそ4分の1にあたる11県には、取扱い医療機関が一つもありません。いったん登録していながらリストから消えた医療機関も、確認できただけで10か所あります。

 

 取扱い機関が少ない理由の一つは、日本産婦人科医会が「当面のあいだ」入院可能な施設をもつ医療機関の母体保護法指定医しか処方できないことに決めたためです。医師の監視下において服用することを義務付けているのはまれであり、不必要にアクセスを妨げる結果になっています。

 

 日本における薬による中絶の料金が海外に比べてかなり高額であることも、普及を妨げている一因です。ラインファーマ社のリストに掲載された医療機関を調べたところ10万円から16万5000円と法外な料金で、外科的中絶よりも高く設定しているところもあります。薬だけで終わらない場合には、外科的処置のために4万~5万円の追加料金がかかることもあります。一方、海外では薬による内科的中絶はせいぜい数万円程度で、通常、外科的中絶よりも格段に安く設定されています。

 

 さらに、日本のメフィーゴパック1個には、ミフェプリストン1錠、ミソプロストール1回分の4錠しか入っていません。そのために、世界保健機関(WHO)が推奨しているように、1回の服用で完了しない場合にミソプロストールを3時間おきに4錠ずつ追加服用することができません。2022年にWHOが発行した『アボーションケアガイドライン』に従えば、中絶完了まで何度でも追加服用が可能であるため、世界では薬のみによる中絶完了は限りなく100%に近づいています。ところが日本では「24時間以内」に排出が終わらない場合は「失敗」とみなされているため、薬のみの成功率は93%と低く、外科手術が追加される人の割合が高くなっています。

 

 しかも、日本ではミソプロストールの追加服用が不可能です。海外では、一回の服用で中絶が完了しない場合、ミソプロストールを成分とするサイトテックという胃潰瘍の薬が使われています。厚生労働省は、日本にもサイトテックが存在していることを認めながら、この薬は「妊婦には禁忌なので使えない」としています。胃潰瘍の薬として使う場合、妊娠している患者が流産しては困るので禁忌にしているというのは理解できます。しかし、中絶薬として用いる場合、その作用は「効用」に転じるにも関わらず、厚労省は「妊婦には禁忌」の姿勢を固辞しています。

 

 英国ボーンマス大学のサム・ローランズ教授によると、ミソプロストールの単剤を中絶薬としてあるいは流産治療薬として使うことについて、治験を行って承認している国はないそうです。ミソプロストールは非常に安価な薬であるため、製薬会社はわざわざコストと手間をかけて承認申請をしないのです。一方で、WHOを含め世界中の専門家によってミソプロストールが中絶に有効であることはすでに科学的エビデンスがあるため、医師の判断で適応外使用されているというのです。

 

 「中絶薬」は稽留流産流産の治療にも使えますが、日本ではメフィーゴパックを流産に使うことも、治験が行われていないことを理由に認められていません。フランスで1988年に発売されてからすでに36年が経ち、世界96か国で安全に使用されており、WHOが流産にも使用することを奨励しているにも関わらず、日本では杓子定規に治験を必須としているために国際的に標準な医療を受けられないのです。これでは、日本人のリプロダクティブ・ヘルス&ライツ(RHR)は保障されていないことになります。

 

 RHR軽視は、緊急避妊薬の薬局販売を認めないことにも表れています。一方、男性の勃起不全治療薬バイアグラについては、国内治験を全く行うことなく半年でスピード承認したのですから、女性のみが使う薬と男性のみが使う薬の取扱いがあまりにも違うのは性差別的だとも言えます。

 

 また海外では、中絶薬の最大のメリットは、プライバシーの守られる空間で中絶を終えられることだと言われています。少なくとも、第二薬のミソプロストールだけでも、自宅で服用できるようにすべきです。

 

 5月16日、メフィーゴパック発売1周年を迎えた際に讀賣新聞が報じたところによれば、日本産婦人科医会常務理事の石谷健・日本鋼管病院婦人科部長は今年の日本産科婦人科学会で、この薬について「大きなトラブルの報告はなかった。必要な女性が使いやすい体制に向けて議論してゆくべきではないか」と発言しています。今も日々数百人の女性が中絶を受けており、一刻も早く議論を進めていくべきです。

 

 WHOの必須医薬品にも指定されている経口中絶薬を、より「使いやすい」薬にしていくためには、ガラパゴス化した日本の中絶医療を見直し、中絶薬の使用規制を緩和しなければなりません。また、健康保険の適用などによって「あたりまえのケア」として提供していくのと同時に、中絶をめぐるスティグマを払しょくしていく必要があります。

 

 21世紀に入って、アイルランドやアルゼンチンなど、宗教上の理由で中絶が厳禁されてきた国々でも中絶が合法化されるようになりました。それは、中絶薬の導入によって「中絶」に対する見方が変わったことが理由の一端だと考えられています。世界では「中絶薬」が使われるようになったことで中絶自体が早期化され、「罪悪視」も弱まっているのです。

 

 中絶は、意図せぬ妊娠をする可能性のあるすべての人に、アクセスよく提供されるべき医療ケアです。それが実現されていない社会は、妊娠しうる人々を差別している公正でない社会であるという認識を広めていく必要があります。




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