女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、社会権規約、自由権規約におけるRHR(特に中絶の権利)に関する抜書き
2023年5月14日作成(第2版)
(1) 女性差別撤廃条約一般勧告第24号(1999年)「女性と保健」に関する女子差別撤廃委員会による一般勧告(内閣府仮訳)
https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku1-25.pdf
原文 A/54/38/Rev.1
序文 リプロダクティブ・ヘルスを含む保健サービスを享受する機会 は女子差別撤廃条約に基づく基本的権利
31. 締約国は、また、とりわけ次のことも行うべきである。
(a)女性の健康に影響を及ぼすあらゆる政策及びプログラムの中心にジェンダーの視点を据え、また、かかる政策及びプログラムの計画立案、実施及びモニタリング、並びに女性に対する保健サービスの提供に女性を関与させること。
(b)セクシュアル・ヘルス及びリプロダクティブ・ヘルスの分野を含め、女性が保健のサービス、教育及び情報を享受する機会を阻害するあらゆる障害の排除を確保するとともに、とりわけ、HIV/AIDS を含む性感染症の予防及び治療のための思春期の若者向けのプログラムに資源を配分すること。
(c)家族計画及び性教育を通じて望まない妊娠の予防を優先事項とし、安全なマザーフッド・サービス及び産前の援助を通じて妊産婦死亡率を低下させること。可能な場合は、妊娠中絶を刑事罰の対象としている法律を修正し、妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰規定を廃止すること。
(d)保健サービスを享受する平等の機会とケアの質を確保するため、女性に対する保健サービスの提供について、公的機関、非政府機関及び民間機関によるモニタリングを行うこと。
(e)すべての保健サービスに対して、自主性、プライバシー、秘密保持、インフォームド・コンセント、及び選択の権利を含む女性の人権との整合を要求すること。
(f)保健従事者の訓練カリキュラムに、とりわけジェンダーに基づく暴力をはじめとする女性の健康と人権に関するジェンダーに配慮した包括的な必修講座を含めることを確保すること。
(2)子どもの権利条約第24条到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利に関わる一般的意見 15 号
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/child_gc_ja_15.pdf
(訳 日弁連)
原文 CRC/C/GC/15(2013 年)
31.子どもは、子どもとともに活動する専門家によって子どもの最善の利益にのっとっていると評価される場合には、その発達しつつある能力にしたがい、親または法定保護者の同意を得ることなく、秘密が守られるカウンセリングおよび助言にアクセスできるべきである。国は、親または法定保護者がいない子どもを対象として、子どもに代わって同意を与え、または子どもの年齢および成熟度によっては子ども自身による同意を援助することができる適切な養育者を指名するための、法律上の手続を明確にすることが求められる。国は、HIV検査ならびにセクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスのためのサービス(セクシュアルヘルス、避妊および安全な妊娠中絶に関する教育および指導を含む)など一定の医学的治療および介入策について再検討を行ない、これらの治療および介入策については親、養育者または保護者の許可を得ることなく子どもが同意できるようにすることを検討するべきである。
54.この連続的期間全体を通じて利用可能とされるべき介入策には、必須保健としての予防および健康促進ならびに治療的ケア(新生児破傷風、妊娠時のマラリアおよび先天性梅毒の予防を含む)、栄養ケア、セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関する教育、情報およびサービスへのアクセス、健康的行動教育(たとえば喫煙および有害物質濫用に関するもの)、出産準備支援、合併症の早期認識および管理、安全な妊娠中絶サービスおよび中絶後のケア、出産時の必須ケア、ならびに、HIVの母子感染の予防ならびにHIVに感染した女性および乳児のケアおよび治療が含まれるが、これに限られるものではない。分娩後の産婦および新生児のケアにおいては、母親が子どもから不必要に分離されないことが確保されるべきである。
56.青少年の妊娠率が世界的に高く、かつ、青少年の妊娠には関連する罹病および死亡のリスクが付け加わることを踏まえ、国は、セクシュアルヘルスおよびリプロダクティブヘルスに関わる青少年の特有のニーズを保健制度および保健サービス(家族計画および安全な妊娠中絶のためのサービスを含む)が満たせることを確保するべきである。国は、女子が自己のリプロダクティブヘルスについて自律的な、かつ十分な情報に基づく決定を行なえることを確保するために行動するよう求められる。青少年の妊娠を理由とする差別(停退学等)は禁止されるべきであり、また継続的教育の機会が確保されるべきである。
57.健康的な妊娠・分娩の計画および確保にとって男子・男性がきわめて重要であることを考慮し、国は、セクシュアルヘルス、リプロダクティブヘルスおよび子どもの健康のためのサービスに関する政策および計画に、男子・男性を対象とする教育、意識啓発および対話の機会を統合するべきである。
70.コンドーム、ホルモン避妊法および緊急避妊薬のような短期的避妊法を、性的活動を行なう青少年が容易にかつ直ちに利用できるようにするべきである。長期的かつ恒久的な避妊法も提供することが求められる。委員会は、国が、妊娠中絶そのものが合法であるか否かに関わらず、安全な中絶および中絶後のケアのためのサービスへのアクセスを確保するよう、勧告する。
(3)経済的、社会的及び文化的権利委員会 性と生殖に関する健康に対する権利(経済的、社会的及び文化的権利権利に関する国際規約第12条)に関する一般的意見36(2016年)
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/international/library/human_rights/22.pdf(日弁連訳)
原文 E/C.12/GC/22
第12条:性と生殖に関する健康に対する権利に関する一般勧告22(2016年)E/C.12/GC/22
(訳日本弁護士連合会-一部改訳)
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/22E.pdf
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I. イントロダクション
1. 性と生殖に関する健康に対する権利(the right to sexual and reproductive health)は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の第12条に規定されている「健康を享受する権利」の重要な一部を成すものである[1]。性と生殖に関する健康に対する権利は、他の国際人権文書にも反映されている[2]。人権の枠組みにおける性と生殖に関する健康の問題は、1994年に「国際人口開発会議行動計画」が採択されたことにより、さらに強調された[3]。これ以降、性と生殖に関する健康に対する権利についての国際的・地域的な人権基準及び判例は、大きく発展した。最近では、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に、性と生殖に関する健康の分野において達成すべき目標とターゲットが盛り込まれている[4]。
2. 性及び生殖に関する健康のための様々な施設、サービス、物資及び情報へのアクセスは、多くの法的、手続的、慣習的及び社会的な障壁により著しく制限されている。実際に、全世界の数百万人の人々(特に女性と少女)にとって、性と生殖の健康に対する権利を十分に享受することは、依然として遠い目標である。法律上・事実上の排除を深刻化させる複合的・交差的な差別の対象となっている個人や集団(例:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの人々[5]、障がい者)による性と生殖に関する健康に対する権利の享受は、さらに制限されている。
3. 本一般勧告は、締約国による規約の実施と、規約に基づく報告義務の遵守を支援するべく作成された。本一般勧告は、主として、すべての個人が性と生殖に関する健康に対する権利を享受できるよう保障する締約国の義務(規約第12条において義務付けられているもの)を扱うものであるが、規約中のその他の条項にも関係する。
4. 当委員会は、すでに、到達可能な最高水準の健康に対する権利(経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約第12条)に関する一般勧告第14 (2000)において、性と生殖に関する健康の問題を部分的に扱った。しかし、この権利に対する深刻な侵害が継続していることを踏まえると、当委員会は、この問題について、個別に意見一般勧告を出すべきであると考える。
II. 背景
5. 性と生殖に関する健康に対する権利には、様々な自由(freedom)と権利(entitlement)が含まれる。上記の自由には、暴力、強制及び差別を受けることなく、自分の身体や、性と生殖に関する健康に関する事項について、自由に責任ある決定及び選択を行う権利が含まれる。また、上記の権利には、妨害を受けることなく、健康に関する様々な施設、物資、サービスおよび情報にアクセスする権利が含まれる(これにより、規約第12条に基づく性と生殖に関する健康に対する権利の十分な享受が、すべての人に保障される。)。
6. 性の健康(sexual health)と生殖の健康(reproductive health)は、互いに区別されるが、同時に、密接に関係している。性の健康は、世界保健機関(WHO)が定義するように、「セクシャリティに関し、身体的、感情的、精神的、そして社会的に良好な状態(well-being)にあること」[6]を意味する。生殖の健康とは、国際人口開発会議行動計画で説明されているように、生殖能力、及び十分な情報に基づく自由かつ責任ある決定に関するものである。これには、個人が、自分の生殖行動に関し、十分な情報に基づき自由に責任ある決定を行うことを可能にするために、生殖の健康に関わる様々な情報、物資、施設及びサービスにアクセスすることも含まれる[7]。
基礎的決定要因及び社会的決定要因
7. 当委員会は、一般勧告第14において、到達可能な最高水準の健康に対する権利は、単に疾病・疾患がないことや、予防的、治療的及び緩和的な健康サービスを受ける権利に限られるものではなく、健康の基礎的決定要因(underlying determinants of health)にも及ぶと述べた。これは、性と生殖に関する健康にも当てはまる。性と生殖に関する健康は、性と生殖に関する医療のみならず、性と生殖に関する健康に関する基礎的決定要因にも及ぶ。これには、安全な飲用水、十分な衛生設備、十分な食料・栄養、適切な住居、安全で健康的な労働条件・労働環境、健康に関する教育・情報、並びにあらゆる形態の暴力、拷問、差別及び性と生殖に関する健康に悪影響を与えるその他の人権侵害からの効果的な保護へのアクセスが含まれる。
8. また、性と生殖に関する健康は、WHOが定義する「健康の社会的な決定要因(social determinants of health)」[8]にも強く影響される。どの国でも、性と生殖に関する健康の有り様には、一般的に、ジェンダー、民族的出自、年齢、障がい及びその他の要因に基づく社会的不平等や権力の不平等な配分が反映されている。貧困、所得格差、及び当委員会が明示した根拠に基づく構造的な差別・疎外は、いずれも性と生殖に関する健康の社会的決定要因であり、これは他の様々な権利の享受にも影響を与える[9]。こうした社会的要因(これらは、法律や政策で明示されていることが多い。)の本質は、個人が自分の性と生殖に関する健康について行使しうる選択権を制限する。したがって、締約国は、性と生殖に関する健康に関する権利を実現するため、法律、制度的取決め及び社会的慣行に明白に表れている、個人の性と生殖に関する健康の実効的な享受を阻害する社会的要因に対処しなければならない。
他の人権との相互依存性
9. 性と生殖に関する健康に対する権利を実現するには、締約国が、規約の他の条項に基づく義務を果たすことも必要である。例えば、教育に対する権利(第13条及び第14条)、差別を受けない権利及び男女間の平等に対する権利(第2条第2講及び第3条)も相まって、性と生殖に関する健康に対する権利には、セクシャリティと生殖に関する教育(包括的、非差別的であり、エビデンスに基づいており、科学的に正確であり、かつ年齢に適した教育)を受ける権利が必然的に含まれる[10]。また、性と生殖に関する健康に対する権利は、労働の権利(第6条)、公正かつ良好な労働条件を享受する権利(第7条)、差別を受けない権利及び男女間の平等に対する権利と相まって、労働者(移民労働者や障がいを持った女性など、弱い立場にある労働者を含む。)のための母性保護及び育児休暇が保障された雇用を確保すること、職場でのセクシャル・ハラスメントからの保護を確保すること、さらに妊娠、出産、親であること[11]、性的指向、性自認又はインターセックスであることを理由として差別の禁止を徹底することを国家に要求する。
10. また、性と生殖に関する健康に対する権利は、他の人権と不可分であると同時に、他の人権と相互依存の関係にある。この権利は、生存権等の市民的・政治的権利(これは、個人の身体的・精神的な完全性(integrity)及び自立性の土台を成す。)、人身の自由及び安全、拷問及びその他の残虐、非人道的又は侮辱的な取扱いからの自由、プライバシー及び家庭生活の尊重、並びに差別の禁止及び平等と密接に関連している。例えば、産科救急ケアサービスの不存在や妊娠中絶の拒否は、しばしば妊産婦の死亡及び罹病をもたらすが、これらは、ひいては生存権又は安全に対する権利を侵害するものであり、場合によっては、拷問又は残虐、非人道的もしくは侮辱的な取扱いに該当する可能性もある[12]。
利用可能性
12. できる限り幅広い性と生殖に関する医療を人々に提供するため、十分な数の機能的な医療施設、医療サービス、医療物資及び医療プログラムの利用が可能であるべきである。これには、性と生殖に関する健康に対する権利を実現する基礎的決定要因を保障する、施設、物資及びサービス(例)安全な飲用水、十分な衛生設備、病院、診療所)の利用可能性を確保することが含まれる。
13. 訓練を受けた医療関係者及び専門職員、並びに性と生殖に関する医療サービスを提供する訓練を受けた医療提供者の利用可能性を確保することは、利用可能性の確保における極めて重要な要素である[14]。また、必須医薬品の入手も可能であるべきである。これには、様々な避妊法(例:コンドーム、緊急避妊、妊娠中絶薬、妊娠中絶後のケア用の医薬品)、並びに性感染症及びHIVの予防・治療用の医薬品(ジェネリック医薬品を含む。)が含まれる[15]。
情報へのアクセス可能性
18. 情報へのアクセス可能性には、性と生殖に関する健康に関する一般的問題についての情報及び意見を求め、入手し、広める権利、及び個人が自らの健康状態に関する具体的情報を得る権利が含まれる。すべての個人及び集団(青少年及び若者を含む。)が、性と生殖に関する健康のあらゆる側面に関し(母体の健康、避妊薬・避妊具、家族計画、性感染症、HIV予防、安全な妊娠中絶及び妊娠中絶後のケア、不妊及び妊孕性に関するオプション並びに生殖器のがんを含む。)、エビデンスに基づいた情報を得る権利を有する。
19. こうした情報は、年齢、ジェンダー、言語能力、教育レベル、障がい、性的指向、性自認及びインターセックスであるか否かといった点を考慮しつつ、個人及びコミュニティのニーズに即した方法で提供しなければならない[19]。情報へのアクセス可能性により、個人の健康データ及び健康情報の取扱いにおいてプライバシー及び秘密性が尊重される権利が害されるべきではない。