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執筆者の写真Kumi Tsukahara

国連自由権規約委員会一般勧告36  第6条: 生命に対する権利

更新日:2022年2月12日

(日本弁護士連合会訳を参考に改訳)

国際連合 CCPR/C/GC/36 市民的及び政治的権利に関する国際規約 配布:一般 2019年9月3日

原文:英語 自由権規約委員会 一般勧告36 第6条: 生命に対する権利 Ⅰ.総論 1. 本一般勧告は、第16会期(1982年)に採択された一般勧告6号(第16会期)及び第23会期(1984年)に採択された一般勧告14号(第23 会期)に置換されるものである。 2. 自由権規約第6条は、全ての人間の生命に対する権利を認め、保障する。生命に対する権利は、武力紛争やその他の国民の生存を脅かす公の緊急事態においてでさえも、効力停止(derogation)することは認められない不可侵の権利である。[注1]生命に対する権利は、各個人及び社会全体双方にとって極めて重要である。生命に対する権利は、それ自体あらゆる人間に備わっている権利として最も重要であり、基本的権利(fundamental right)[注2]の一つに該当し、その効果的保護が他の全ての人権を享受するための前提条件となっており、さらに、その他の人権によりその内容がもたらされうるものである。 3. 生命に対する権利は狭義に解釈されるべきではない。生命に対する権利は、 尊厳のある生を享受することに加え、個人の自然に反した死又は早すぎる死をもたらすことを意図した又は予期されるべき作為及び不作為から免れる権利に関わる。第6条は、最も重大な犯罪に対する被疑者及び同犯罪に対する有罪判決を受けた者も含め、いかなる差別もなしに、全ての人間にこの権利を保障している。 4. 第6条1項は、何人も恣意的にその生命を奪われず、この権利は法律によって保護されることと規定している。これは、生命に対する権利を尊重し、確保する締約国の義務、立法及び他の手段を通じて生命に対する権利の保障を実施する締約国の義務、並びに生命に対する権利を侵害された全ての被害者に対して効果的な救済及び補償を提供する締約国の義務を基礎とするものである。


5. 第6条2、4、5、6項は、死刑をいまだ廃止していない諸国において、死刑が最も重大な犯罪に対し、最も例外的な事件において、厳しい制約(下記の第Ⅳ 部参照)の下でのみ適用されることを確保するための具体的な安全確保装置(セーフガード)を定めている。第6条1項に含まれる恣意的な生命はく奪の禁止は、締約国が死刑を適用する権限をさらに制限している。第6条3項の規定は、第6条と 「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約( ジェノサイド禁止条約)」( the Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide: the Genocide Convention)との関連を具体的に規定している。 6. 生命のはく奪は、作為又は無作為の結果生ずる、意図的な[注3]又は他の予見できる、そして回避可能な危害あるいは傷害による生命停止を含む。それは、 身体的又は精神的統合性(integrity)に対する傷害さらには脅威以上のものである [注4]。 7. 締約国は、生命に対する権利を尊重し、生命の恣意的はく奪に結びつく行為に関与することを回避する義務を負う。また締約国は、生命に対する権利を保障し、 その行為が締約国に起因しない人物あるいは団体による(生命の)はく奪に対して、 個人の生命を保護するためのデュー・ディリジェンス〔訳注:人権リスクを特定し、軽減・予防し、救済する措置を取ること〕を実施しなければならない[注5]。締約国の、生命に対する権利を尊重し確保する義務は、生命の損失をもたらし得る合理的に予見可能な脅威及び生命を脅かす状況に対して及ぶものである。締約国は、たとえそのような脅威及び状況が実際には生命の喪失をもたらさない場合でも、第6条に違反する可能性がある[注6]。 8. 締約国は、自主的な妊娠中絶を規制するための措置を採用することは可能であるが、そのような措置は、妊娠中の女性又は少女の生命に対する権利、若しくは自由権規約の下において保障されているその他の諸権利を侵害する結果となってはならない。 したがって、妊娠中絶を求める女性又は少女の能力に対する制限は、とりわけ、 彼女たちの生命を危険にさらし、あるいは彼女たちに第7条に違反する肉体的又は精神的な苦痛や苦しみを与え、彼女達を差別し、彼女らのプライバシーに対する恣意的な干渉となるようなものであってはならない。 締約国は、妊娠中の女性又は少女の生命及び健康が危険に曝される状況、又は妊娠を予定日まで継続することが妊娠中の女性又は少女に相当の苦痛や苦しみを引き起こすような状況、なかでも妊娠がレイプや近親相姦の結果の場合、あるいは胎児が致命的な損傷を負っている場合などの状況下における妊娠中の女性又は少女に対


して、安全かつ合法的、効果的な妊娠中絶へのアクセスを提供しなければならない[注7]。

加えて、締約国は、女性又は少女が安全でない妊娠中絶に頼る必要がないように配慮しなければならない義務を負うのであり、この義務に違背するような形で妊娠や妊娠中絶を規制することは許されず、これに沿うように締約国はその中絶に関する法律を改正しなければならない[注8]。

例えば、締約国は未婚女性の妊娠を刑事罰の対象とすること、あるいは中絶を経験した女性及び少女に対して刑事罰を適用すること[注9]、それを手助けした医師に対して刑事処罰を適用することなどの措置は、その措置により女性及び少女が安全でない中絶を強制されるので、採用するべきではない。

締約国は、安全かつ合法的な中絶[注10]に対して女性又は少女が効果的にアクセスすることを否定する新たな障壁を導入するべきではなく、又はそのような既存の障壁[注11]を取り除くべきであり、そのような障壁には医療提供者個人の良心的拒否の結果としてもたらされるものも含む[注12]。

さらに締結国は、安全でない妊娠中絶に伴う精神的・肉体的な健康リスクから女性及び子どもの生命を効果的に保護しなければならない。

特に、締結国は、全ての人、特に、少女及び少年[注13]に対して、性と生殖 にかかる健康[注14]に関する質が高く、科学的根拠に基づいた情報及び教育、 並びに様々な手頃な価格の避妊方法[注15]へのアクセスを確保するべきであり、 更に妊娠中絶を求める女性又は少女へのスティグマを防止するべきである[注16]。

締約国は、いかなる状況においても、秘密厳守で[注18]、女性及び少女に対して[注17]、出産前及び妊娠中絶後の適切な健康管理が利用でき、効果的なアクセスができるよう確保しなければならない。


9. 締結国は、個人の自律という人間の尊厳の核心的重要性を承認すると同時に、他の規約上の義務に違反しない限り、自由をはく奪された人々を含む特に脆弱な立場[注19]にある人々が自殺することを防止するための十分な措置を採用するべきである。

同時に、締約国は、肉体的・精神的に激しい痛み及び苦しみを経験していて、尊厳のある死を望んでいる[注20]、瀕死の重傷を負った、あるいは末期症状にあって、ひどく苦しんでいる(afflicted)成人の生命の終結を手助けするために医療専門家が治療や医学的手段を行うことを妨げるべきではない。そのようなケースでは、締約国は 医療専門家が、自由な意思による、十分な情報提供に基づいた、はっきりと述べられた明確な患者の決定に従い、強制や濫用から患者を守ること[注21]を確保するための確固とした法的・制度的なセーフガードを保障しなければならない。


――後略――


注釈 1 International Covenant on Civil and Political Rights,art. 4; Human Rights Committee, general comment No. 6 (1982) on the right to life, para. 1; general comment No. 14 (1984) on the right to life, para. 1; Camargo v. Colombia, communication No. 45/1979, para. 13.1; Baboeram-Adhin et al. v. Suriname, communications Nos. 146/1983 and 148–154/1983, para. 14.3. 2 Universal Declaration of Human Rights,preamble. 3 Camargo v. Colombia, para. 13.2. 4 Human Rights Committee,general comment No. 35 (2014) on libertyand security of person, paras. 9 and 55. 5 Human Rights Committee,general comment No. 31 (2004) on the nature of the general legal obligationimposed on States parties to the Covenant,para. 8. See also EuropeanCourt of Human Rights, Osman v. United Kingdom(case No.87/1997/871/1083), judgment of 28 October 1998, para. 116. 6 Chongwe v. Zambia (CCPR/C/70/D/821/1998), para. 5.2. See also European Court of Human Rights, İlhan v. Turkey (application No. 22277/93), judgment of 27 June 2000, paras. 75–76; Inter-American Court of Human Rights,Rochela massacre v. Colombia, judgment of 11 May 2007, para. 127. 7 Mellet v. Ireland (CCPR/C/116/D/2324/2013), paras.7.4–7.8; CCPR/C/IRL/CO/4, para.9. 8 Human Rights Committee,general comment No. 28 (2000) on the equality of rights between men and women, para. 10.See also, e.g., CCPR/C/ARG/CO/4, para. 13; CCPR/C/JAM/CO/3, para. 14; CCPR/C/MDG/CO/3, para. 14. 9 CCPR/C/79/Add.97, para. 15. 10 See, e.g., CCPR/CO/79/GNQ, para. 9; CCPR/C/ZMB/CO/3, para. 18; CCPR/C/COL/CO/7, para. 21; CCPR/C/MAR/CO/6, para. 22; CCPR/C/CMR/CO/5, para. 22. 11 See, e.g., CCPR/C/PAN/CO/3, para. 9; CCPR/C/MKD/CO/3, para. 11. See also World Health Organization, Safe abortion: technical and policy guidancefor health systems, 2nd ed. (Geneva,2012), pp. 96–97. 12 CCPR/C/POL/CO/7, para. 24; CCPR/C/COL/CO/7, para. 21. 13 CCPR/C/CHL/CO/6, para. 15; CCPR/C/KAZ/CO/1, para. 11; CCPR/C/ROU/CO/5, para. 26. 14 CCPR/C/LKA/CO/5,para. 10; CCPR/C/MWI/CO/1/Add.1, para. 9; CCPR/C/ARG/CO/5, para. 12. 15 CCPR/C/POL/CO/6, para. 12; CCPR/C/COD/CO/4, para. 22. 16 CCPR/C/PAK/CO/1, para. 16; CCPR/C/BFA/CO/1, para. 20; CCPR/C/NAM/CO/2, para. 16. 17 CCPR/C/PAK/CO/1, para. 16. 18 Committee on the Rights of the Child, general comment No. 4 (2003) on adolescenthealth and development in the contextof the Convention, para. 11. 19 CCPR/C/79/Add.92, para. 11. , 20 Committee on Economic, Social and Cultural Rights generalcomment No. 14 (2000) on the right to the highest attainable standard of health,para. 25. 21 CCPR/C/NLD/CO/4, para. 7.


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