中絶薬承認にまつわる要望書-2021.12.17 法務大臣、厚生労働大臣宛

更新日:1月19日

2021年12月17日


法務大臣 古川禎久 様

厚生労働大臣 後藤茂之 様


中絶薬承認にまつわる要望書


RHRリテラシー研究所

代表 塚原久美

https://www.rhr-literacy-lab.net/

rhr.lit.lab@gmail.com


私たちRHRリテラシー研究所は、女性の生殖に関する健康と権利の実現に向けて活動をしている団体です。この度、英国ラインファーマ社が日本初の経口人工妊娠中絶薬の承認申請を行う見通しであること伺いました。

この薬を必要とするすべての女性がアクセスしやすくなるように、法務省におかれましては、必要な法改正を行って、薬を必要とするすべての女性が安心かつ安全に使用できるようにしていただきたく、また、厚労省におかれましては、手ごろな価格で、シンプルな方法で入手可能になるようご尽力いただきたく、下記を要望いたします。

なにとぞご検討くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。




1.日本の刑法堕胎罪と母体保護法を見直してください。


 これらの法律は、いずれも1906年に日本に紹介された「搔爬」以外に安全で確実な方法がなかった時代に制定され、現代の中絶医療の進歩と齟齬をきたしています。近い将来、中絶薬の導入が見えてきた今、いずれの法律も早急な見直しが必要です。

 12月9日に当研究所主催で行った法務省および厚生労働省の担当者、国会議員、市民との院内意見交換会で、法務省の担当者より「刑法堕胎罪の保護法益は胎児の生命と身体」との回答がありました。このような法のあり方は、胎児の命を奪うものとして中絶を罪悪視し、スティグマを刻む源泉となっています。現代では、中絶は女性の権利であり、女性には人権があります。人権は生まれた後の人間に付与されるものであり、胎児生命のために女性の人権が侵害されるべきでないことは、国連人権理事会等の激しい議論の末に、今や了解事項となっています。


1−1 中絶の権利は国際標準

 2016年の国連社会権規約第12条「性と生殖に関する健康権」の一般的意見22や、2019年の国連自由権規約第6条「生命権」の一般的意見36には、女性と少女の中絶の権利を保障すべきであることが明記されました。これらの権利保障は、すでに締結国の義務となっていますが、本邦では全く知られておらず、議論の俎上にものっていません。日本は国家全体で女性に対する差別と人権侵害を放置しています。

 さらに言えば、日本は2016年3月の「日本の第7回及び第8回合同定期報告に関する最終見解」で国連女性差別撤廃委員会より「刑法及び母体保護法を改正し、全ての場合において中絶の合法化を確保し処罰の対象から外すこと」と、「母体保護法を改正し、人工妊娠中絶を受ける妊婦が配偶者の同意を必要とする要件を除外すること」を勧告されています。さらに2020年3月にも再度同国連委員会より刑法堕胎罪と母体保護法の改正について回答を求められています。しかし、2021年9月に日本政府が同委員会に提出した第9回定期報告は、これらの質問に対して真摯に回答しておらず、まるでこの国が女性差別撤廃を積極的に進めていないようにすら感じられます。


1−2 海外は次々に法改正

 胎児生命の尊重を理由に女性の人権を侵害してはならないという考え方は、もはや世界の主流です。カトリックの影響が強く、「胎児の権利」が女性の権利と同等のものとして憲法修正8条に書き込まれていたアイルランドですら、2018年には同修正条項が国民投票で撤廃され中絶が合法化されました。同様にカトリック国として知られてきたアルゼンチンでも2020年に中絶が合法化されました。中絶を脱犯罪化する国々も増えており、2020年にはニュージーランドで、2021年には韓国とメキシコで堕胎罪がなくなりました。

 韓国の堕胎罪撤廃運動では、女性たちが「70年も前の古い堕胎罪に縛られている」と主張していましたが、日本の場合は新刑法から考えても114年前、旧刑法から数えると実に141年も前の古い法律に、今も女性たちは縛られているのです。

刑法堕胎罪が制定された当時、女性は家父長の「もの」であり国民としての権利を有していなかったことは周知の事実です。男女平等の実現がはかられている現在、女性差別撤廃委員会が女性差別の最たるものとして再三改正を指摘している「刑法堕胎罪」を「胎児生命の尊重」を理由に温存することは、明らかに女性差別であり、早急に見直す必要があります。


2.中絶薬を必要とするすべての人に安価にアクセス良く提供してください。


 このたび承認申請される予定の中絶薬は、1988年に中国とフランスで認可されて以来、今年10月時点において世界82ヵ国で承認されています。


2−1 国際機関は中絶薬のオンライン処方と自宅服用の恒久化を宣言

世界保健機関(WHO)は2003年より中絶薬を「安全な中絶」方法として認め、2005年には必須医薬品リストに収載し、2019年には必須医薬品コアリストにも収載するようになりました。コアリストに載る薬は、安全性と有効性が抜群に高く、安価で、取り扱いやすく、医療介入が最少ですむ優れた薬だとされています。

 2020年3月、WHOがCOVID-19のパンデミック宣言をした直後に、国際産科婦人科連合(FIGO)は、パンデミックの最中は中絶薬の遠隔診療(オンライン処方)と自己管理中絶(自宅での中絶薬服用)を許可するよう各国に要請しました。さらに2021年3月には、1年間の使用経験から安全性と有効性のエビデンスが得られたとして、中絶薬のオンライン処方と自宅服用を恒久化すべきであると宣言しました。

日本では中絶の約94%が妊娠初期に行われているため、この薬を自宅で服用できるようにすることで、大多数の女性たちはより早期に、よりリスクの低い中絶を自宅で行えるようになります。また海外では、オンライン処方と自己管理中絶を組み合わせることでより中絶が早期化され、よりリスクが減るというエビデンスも出ています。

 また、日本の現行法の下では、女性が自分で中絶薬を服用することは堕胎罪にあたり、中絶薬を扱えるのは母体保護法指定医(産婦人科医の一部)のみになります。しかし堕胎罪制定当時の「妊娠中の女子が薬物を用いる方法」と、現代の「中絶薬の自己服用」とは明らかに状況が異なります。WHOは、妊娠初期の中絶であれば、中絶薬は准看護師レベルでも安全かつ確実に処方できる薬であると述べています。中絶薬の扱いを、母体保護法指定医師のみに制限することは、国連社会権規約で保障を求めているリプロダクティブ・ヘルスケアを受ける権利を侵害し、国連自由権規約で明示的に禁止している差別的な「障壁」を固辞し続けることに他なりません。


2-2 女性の費用負担への配慮を

 また、中絶薬の世界平均の原価は780円程度です。この廉価な薬を「病院経営の観点により」、従来の中絶費用と同等にするという意見も耳にしますが、それは女性本位の医療ではなく、女性に不必要な負担を負わせる差別的扱いであり、許されることではありません。そもそも日本の中絶は「自由診療」の名のもとに非常に高額である受胎が続いてきました。政府は、女性の健康と権利を守るために、中絶薬が法外な価格設定されないように監視する義務があります。

 なお、指定医師たちの収入が激減するとしても、それは科学的進歩の帰結であり、やむをえないことです。補填が必要であれば、それを行うのは政治の仕事ではないでしょうか。中絶が高額なためアクセスできず、トイレ等で孤立出産する事件も後をたちません。経済状況に関わらず、どんな女性も必要とするときに中絶医療にアクセスできてこそ、平等な医療が実現します。

 世界の先進国の多くが中絶医療をはじめ女性の妊娠機能に関わる避妊や妊娠や出産にかかる費用を医療保険や公的な補填の対象にしています。日本の女性は(現在議論されている不妊治療や、ごく例外的な医療処置以外)すべて自費診療です。健康保険の適用も含めて見直しが必要です。


 フランスで中絶薬の導入に対して反対の声が上がったとき、時の厚生大臣は「中絶薬は女性の倫理的資産である」と述べました。中絶薬は女性にとって望まない妊娠から解放される最後の砦です。この薬を必要とするすべての人に合法的かつ速やかに提供できるような制度設計を強く求めます。

                                 以上




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